大きくて軽い機体が必要だった

カンタス航空は2017年、オーストラリア東海岸からロンドン、ニューヨークへの直行便を就航させる超長距離飛行計画「プロジェクトサンライズ」を立ち上げ、エアバスとボーイングの両社に、これらのミッションを達成できる飛行機の開発を依頼した。大量の航空機の発注の場合や、今回のような特別な目的を持つ航空機が必要な場合に使われる手法だ。

最終的に採用が決まった「エアバスA350-1000」のほか、

・ボーイング社の777-9X(エンジンはGE製のGE-9X)
・パース線で就航中のボーイング787-9型機

も選択肢には存在していた。なぜ「エアバスA350-1000」だったのか。なぜほかの2つではダメだったのだろうか。

ボーイング社のウェブページによると、ボーイング777-9Xは座席数426席、大型の胴体延長型だ。航続距離は1万3500km。「777型機と787ドリームライナーの成功を土台として生まれた、世界最大かつ最も効率性が高い双発機」と謳われているが、短胴の777-8Xと比べて機体重量は重く、航続距離が比較的短い難点があった。

ボーイング777-9X型機
筆者撮影
候補となったボーイング777-9X型機。2021年11月、ドバイ・エアショーにて撮影。

ボーイング787-9型機は、最大航続距離は1万4010kmに達するが、座席数250~290の中型機となる。客単価を上げ、プレミアム戦略で収益化するうえで中型機は不利になる。この点は減点となったことだろう。

最長路線を飛ぶA350-1000型機
筆者撮影
「世界最長路線」を飛ぶことになったA350-1000型機。ワイドボディで、A350型の中で胴体が最も長い長胴型だ。

対してエアバスは、A350-900より長胴のA350-1000のほうが航続距離は長いという逆転現象が起きている。広くなった胴体に効率的に燃料搭載ができるようにし、長距離飛行ができるように設計したからだろう。また乗客が超長時間飛行に耐えられるよう、広々とした胴体の機体で飛ばしたかったカンタス航空の希望にかなう機体だったと言える。

エアバスA350-1000の機内透視図
写真提供=カンタス航空
A350-1000の機内透視図。ファースト、ビジネス、プレミアムエコノミーの「上級クラス」の割合が高く、ゆったりとした作りとなっている。

機体重量を減らし、しっかり儲ける「プレミアム戦略」

長い飛行時間を実現するには機体を徹底的に見直し、軽量化させる必要がある。機体それ自体の軽量化も重要ではあるが、よりインパクトがあるのが乗客数の削減だ。また乗客がこの長旅に耐えられるように、客室にも特別な仕様が求められる。

そこでカンタス航空が打ち出したのが「プレミアム戦略」だ。「エアバスA350-1000」の最大座席数は440席。同型機の標準座席数は350~410席とされている。だが、カンタス航空は超長距離路線向けに、238席とゆとりある作りにした。

客室は、ファースト(6席)、ビジネス(52席)、プレミアムエコノミー(40席)、エコノミー(140席)の4クラス構成。かなり席数が絞られている計算となる。最大座席数の仕様よりも200人少ないことになる。

一方で、客単価を上げて収益力を高める必要が出てくる。カンタス航空は「上級クラスの座席数」(エコノミー以外の席種)の比率を大幅に増やした。