今国会の会期末は6月21日。岸田文雄首相は、月内とも今秋とも噂される「解散」に踏み切るのか否か。自民党の元参議院議員で大正大学社会共生学部准教授の大沼みずほさんは「岸田総理や政治家、マスコミは一度、今回の騒ぎのキーワードとなっている『大義』という言葉を辞書で引くといいのではないか」という――。

解散の「大義」を巡る大御所2人の発言

解散があるのか、ないのか。会期末まであと少しとなり、毎日のように紙面がざわついている。

解散について、その「大義」を巡って、2人の大御所が対照的な発言をしている。

ひとりは、自民党副総裁である麻生太郎氏(82)。6月8日に記者の取材にこう答え、早期解散に慎重な姿勢を打ち出した。

「『解散はいつですか』って、そこの後ろに立っているマスコミってのはそれしか今聞かないんですけれども……。(逆に)“解散の大義”を教えていただければというような感じがしている」

一方、古賀誠元幹事長(82)は、毎年、宏池会の若手議員と行っている故大平正芳元総理(在任期間1910~1980)命日墓参の際(6月12日)、次のように述べた。

「解散総選挙は、中長期的に戦略や戦術を持ってするものではない。一瞬の判断だ。大義は、いつでもついてくる。大義を考えて解散している人は今まで誰もいない。解散の後に大義がついてくる」

岸田文雄総理(65)へのエールとも取れる発言をした古賀誠元幹事長。宏池会のかつてのトップであり、2012年に政界を引退した後も、宏池会名誉会長として、宏池会を牽引してきた。岸田総理を宏池会会長として後継指名したのも、古賀氏である。そうした意味で、岸田総理の恩人といえるだろう。

一方、麻生氏は、河野洋平〔86・河野太郎(60)の父〕氏らと1998年に宏池会から脱会し、同じ福岡が地元である古賀氏とは、長らくライバル関係にありながらも、岸田総理を総理にするため、後ろ盾となっている。岸田総理にとって、麻生氏も恩人のひとりといえる。

古賀氏と縁を切ることが麻生氏からの支援を受け取る条件だったとの噂は広く知られており、古賀氏が岸田総理を総理にするため、身を引いたと言われる。現在、古賀氏が宏池会の名誉会長から退いていることからも、岸田総理と麻生氏の方が関係は密であると見られている。実際、岸田総理誕生後、表立って、総理と古賀氏が食事をしたり、古賀氏が官邸を訪れたりした形跡はない。

この「大義」を巡る2人の大御所の発言を岸田総理はどうとらえているだろうか。

古賀氏の発言が麻生氏の発言の後だったということは、それは麻生氏が解散に反対の立場であっても、「解散を打つなら、俺は応援するぞ」ということを意識したメッセージであり、2人の対照的な発言のどちらが岸田総理の心に刺さったかで、最終的な判断にも少なからず影響を与えよう。