[6]直情型肉食系の人

ここまで読んでいただければもうおわかりかと思う。レイ・クロックという人はとてつもないエネルギーにあふれた直情型の人間である。すぐ怒り、すぐ怒鳴る。

成功はゴミ箱の中に
[著]レイ・A. クロック,ロバート・アンダーソン[監修・構成]野地 秩嘉[翻訳]野崎 稚恵[解説]柳井 正,孫 正義
(プレジデント社)

先に球団を買収した話を書いたが、自分のチームであるサンディエゴ・パドレスがホームゲームでピリッとしない試合をしていたときのことだ。怒り心頭のクロックは、一人で勝手に音響ブースに駆け上がり、実況中継をしていたアナウンサーのマイクを奪い取るやいなや「こちら、レイ・クロックです」と、観客に直接呼びかけた。そして「良いニュースと悪いニュースがあります。この球場より大きいカバス・レヴィン球場でロサンゼルス・ドジャースの開幕式が数日前に開催されたときより、一万人多い来場者数となりました。これが良いニュースです。悪いニュースとは、我々がひどいゲームをお見せしているということです」と怒鳴った。

ここでドジャースの開幕戦より客が多く入った、と数字でしっかり自慢しているところがいかにもクロックなのだが、自分のチームの体たらくににはとにかく我慢がならない。「謝罪します。私はうんざりしています。これは私が見た中でいちばん下らない最悪の試合です!」と大音響で絶叫した。観客は突然のオーナーの絶叫にただ驚くばかり。還暦を過ぎてこのエネルギー。年をとっても枯れることなく、喜怒哀楽がストレートに出る。

このエネルギーは恋愛にもいかんなく発揮される。肉食系オヤジ、クロックは生涯で3度の結婚をしている。バンド時代に出会った初めの奥さんのエセルには、仕事ばかりしていたせいで愛想をつかされ、35年つれそった後に離婚している(エセルはマクドナルドを始めることにも大反対していた)。

この離婚が避けられないものとなっていた頃、クロックはジョニという女性に出会う。人妻である。「初対面で彼女の美しさにノックアウトされた」というが、このときクロックはもう50代後半なのである。しかも「彼女も私も既婚者だったので、目が合った瞬間のときめきを打ち消さなければならなかった。だが、それは私にはできなかった」と恥ずかしげもなく回想している。人妻に惚れた話など、自伝には書かないのが普通だろう。たとえばハロルド・ジェニーンだったら絶対に書かないはずだ(というか、彼だったらそもそもそういう「仕事の邪魔」になることには手を出さないはず)。

クロックはエセルと離婚し、「ふたりが夫婦になること以上に正しいことなどこの世にあるものか」とすっかり舞い上がって、ジョニが離婚するのを待った。ところが、そうこうするうちに、ジェーン・ドビンス・グリーンなる女性があらわれ、またもや速攻で恋に落ちて、出会って2週間後に結婚してしまう。そのときの言い草が「彼女はとても可憐で……ジョニと正反対のタイプだった」。あっさり書いているが、この厚かましさは尋常ではない。

しかもそこまでして結婚したのにジョニにたまたま5年ぶりに再会して、恋心に再び火がついてジェーンを離婚し、ジョニと一緒になるのである。このときクロックは67歳。10年越しの本命ゲット。「ついに彼女を手に入れた!」と大はしゃぎである。勝手きわまりない話なのだが、本人はまったく反省していない。「自分の心に正直に行動することのどこが悪いのか」と開き直る。返す言葉がない。