[8]ワンマンな人

この本の13章には、「トップは孤独である」というタイトルがついている。しみじみとしたイイ話なのかなと期待して読んでみると、やはり他の章と変わらない手前勝手な話が出てくる。

ハリー・ソナボーンという、創業期からの財務担当重役がいた。メニューや店舗開発など攻めのほうをクロックが、財務会計などの守りのほうをソナボーンが担当し、それまで二人三脚でうまくやっていた。ところが、クロックが愛してやまない新店舗建設を、景気の動向を考えれば、出店を一時凍結し、現金を蓄えたほうがよいとソナボーンが言い出したからもう大変。2人の間に亀裂が走る。クロックは激怒し、ソナボーンは会社を去る。彼が辞めたあとも、店舗建設は地域経済が活性化するのを待ったほうがよいというのが社内の意見の主流だった。クロックは「ばか野郎!景気の悪いときにこそ建てるんだ!」と怒り狂い、慎重派の意見を叩きつぶした。

創業期からのメンバーであるソナボーンはマクドナルド株を大量に保有していた。自分がマクドナルドを離れれば企業価値が下がるだろうと考えたソナボーンは、マクドナルドを去るときに全部持ち株を売り払っている。彼はそれを資金として、新たに金融業に参入しようと考えていた。しかし、彼が辞めた後もさらに株は上がり、当時のほぼ10倍になった。

こうした成り行きについて、クロックは「マクドナルドに対する信頼感の欠如は、彼に大きな犠牲を払わせることになった」とわざわざ本に書いている。大人げないといえば大人げない。さらに、ソナボーンの辞職を聞いてトップ管理職のひとりが「万歳! マクドナルドはハンバーガービジネスに戻った」と言って喜んだという話まで大得意で披露している。邪魔者が去って、社内の雰囲気が明るくなったと言わんばかりである。

ようするに、「トップの孤独」というよりも、クロックのこの激情的でワンマンな性格ゆえに、まわりの人間が離れていったというのがジッサイのところである。しかし、商売の根幹部分は誰にも反対させないというくらい、強く激しい意志の持ち主でないと、これだけの商売を創りあげることは無理だっただろう。