アメリカは巨額の資金をはたいてウクライナに兵器を送っている。その目的は何か。作家の佐藤優さんは「アメリカは今回の戦争が“使える”ことに気づいた。ウクライナに戦わせることで、ロシアを弱体化できるからだ」という――。

※本稿は、手嶋龍一・佐藤優『ウクライナ戦争の嘘 米露中北の打算・野望・本音』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

G7広島サミット後、会見を行うバイデン大統領
写真=AFP/時事通信フォト
G7広島サミット後、会見を行うバイデン大統領=2023年5月21日

アメリカはウクライナを勝たせるつもりはない

【手嶋】ウクライナのゼレンスキー大統領は、クリミア半島を含めたすべての領土の奪還を主張し、バイデン大統領もそれを支持すると述べています。たとえ和平交渉が持たれたとしても、両者の主張は大きく隔たっています。

【佐藤】そう、ゼレンスキー大統領は、4州のロシアへの併合を認めた形で戦争を終結させたりしたら、自分が縛り首になりますから必死です。ただ、アメリカはウクライナが望むような勝利のシナリオは描いていない、とみるべきです。

【手嶋】ウクライナで戦いが起き、国際秩序にかくまで甚大なダメージを与えてきた責任の一端は、超大国アメリカにあると言っていい。かつては、口先でウクライナのNATO加盟を支持すると言っていながら実際には何もせず、ウクライナのすべての領土の奪還がいかに困難かを知りながら、これまた口先で都合のいいことを繰り返す。この点でアメリカは、歴史の審判を受けなければならないと思います。

「第三次世界大戦を招かぬように」という制約条件

【佐藤】ここは、ちょっとだけロシアの気持ちになって考えれば分かることです。今回の4州のみならず、クリミアまで奪い返されるのを、ロシアは黙って見ていられるのか。答えは、「断じて許すまじ」なのです。西側の支援を受けたウクライナが、クリミアに攻勢をかけてきた場合には、戦いのフェーズはさらに上がります。

現実問題として、ウクライナ軍単独でクリミア半島に攻め入ることは考えられません。その場合には、アメリカ軍を中心とするNATO軍による直接介入ということになるでしょう。事実上の米ロ衝突ですから、そのまま第三次世界大戦に発展してしまう公算が大きくなります。

【手嶋】“新クリミア戦争”で、ロシアが劣勢を強いられれば、プーチン大統領は、核のボタンに手をかけるかもしれません。プーチンの内在論理に思いをいたして考えれば、核戦争の悪夢が現実になる恐れがあるのです。

【佐藤】その可能性は十分にあるとみていい。当然、アメリカはそれを理解しています。ロシアのような国はけしからん、アメリカがつくりあげた国際秩序を乱すことができないようにしてやりたい。これが彼らの本音でしょう。ただ、そこには「第三次世界大戦を招かぬように」という制約条件が付く。つまり、戦域はあくまでウクライナにとどめておかなくてはならない。