局長会が局長に局舎を持たせたがるワケ
自らの信用を投げ捨て、ウソとしか思えない方便をまき散らしてまで、いったい何を守りたいのか。
局長個人が局舎を欲しがる動機は、賃料欲しさではなく、自分で局舎を持つ「自営局舎」を郵便局長会が強力に推進していることが大きい。中には欲しくもないのに、渋々取得する局長も珍しくない。
では、局長会は何のために局舎を局長に持たせるのか。
答えは拙著『郵便局の裏組織』で詳細に明かしているが、事実として浮かび上がるのは、郵便局長会の関連団体に多額の利得が注ぎ込まれていることだ。
全国に12ある地方郵便局長協会は、局長に局舎の取得資金を融資し、多額の利息収入を稼いでいる。たとえば中国地方郵便局長協会は日本郵便の局舎賃料などを元手に、20年12月期だけで9000万円超の貸付金利息を得ている。局長数で単純に試算すれば、利息収入は全国で年間10億円規模にも上るはずだ。
局長協会は一般財団法人で、役員や所在地は各地の地方郵便局長会とほぼ同じ。法人格のない地方郵便局長会に代わり、契約を結んだり不動産を保有したりするのに使われる「サイフ」役だ。各地でビルを保有して郵便局を入居させたり、一部では1棟マンション投資にも乗り出したりするなど、資金運用には余念がない。
運用資金の元手は、会員である局長から集める積立金が中心だ。運用で稼いだお金は会員への支払いに充てるほか、組織を回す人件費や不動産などの管理費にも使われる。いわば、「裏組織」である局長会の運営を支える資金源の一部である。
企業の管理者でつくる財団法人が、会社から支出される店舗経費の一部を、自分たちのサイフに流れ込むように工作を働いている、ということだ。
ところが、こうした郵便局長協会の”錬金術”について、担当役員の坂東氏は会見で「そんなに大きくない」とまで言ってかばってみせた。なるほど、協会に流れる10億円も彼らにとってははした金なのか。
「最低の事後対応」で信用は地に落ちた
折しも日本郵便は、郵便や宅配の利用料金を続々と値上げしまくっている時期にある。
彼らは郵便の利用者負担が重くなるのは厭わず、地域住民である地主が土地取引で不利益を被るリスクにも目をつむり、身内同然の局長会の利得を守るためだけに、なりふり構わず「最低の事後対応」に走っているのだ。
実はこれは、近年の不祥事で見られた日本郵便の“王道パターン”だ。
経営陣やコンプライアンス部門による「見て見ぬふり」は、顧客の情報を局長会の選挙のために流用した問題、8億円のカレンダー費用を局長会の要望に応じて注ぎ込んだ問題でも、同様だった。一般社員はちゅうちょなく切り捨てるわりに、局長会の利権が絡むと途端に、企業のガバナンスもコンプライアンスも棚上げにしてしまう。
彼らは郵便局の利用者の保護などよりも、局長会の利権を守ることを優先している。そのこと自体が郵便局ブランドを深く傷つけ、寿命が縮まるのを加速させているというのに。
郵便サービスを利用する私たちは、局長会の利得のために、利用料などの負担が重くなっていく事態をこのまま漫然と見過ごすのか。それが許せないとすれば、選択肢は一つしかない。日本郵政と局長会に改善の兆しがない以上、郵便に頼らない生活への移行を加速させ、決別への備えを急がなければならない。
現場の社員と郵便の利用者を愚弄した今回の振る舞いも、そう指南してくれている。
※郵便局長会や局舎に関する情報は、筆者(fujitat2017[アットマーク]gmail.com)へお寄せください。