需要があるから分譲地が造られた
実際筆者は、以前勤めていた江東区内のタクシー会社で、80年代にこの手の投機型分譲地の営業マンを行っていたという元同僚と話をしたことがあるが、彼は、自分のやっていたことでは原野商法ではなく、きちんと測量図も作成し、造成工事を行って分譲していたまともな会社だった、と断言していた。
開発業者にしてみれば、別に違反造成を行っているわけでもなし、需要があるから分譲していたにすぎないのかもしれない。
重要なことは、彼らもあくまで営利事業で行っているわけで、たとえその造成工事が非合理的で、水道管など実際は全く無用の長物だったとしても、分譲価格には、それに要した工事費用がしっかり上乗せされていたということだ。
つまり、こんな水田のど真ん中の、およそ宅地としての利用に堪えないような無駄な造成工事や無駄な水道管の敷設工事も、最終的にはすべて分譲地の購入者が負担させられていたということになる。
ただでさえ実際の価値から大きくかけ離れた地価の暴騰が起きていたバブル期において、工事費用まで上乗せされていたとなれば、それは今日の感覚ではにわかには信じがたい価格であることは想像に難くない。
田んぼの真ん中なのに坪40万円弱…
筆者はこの分譲地について調査した際、全12区画の登記簿をすべて取得している。
それを見ると、購入者のほとんどが東京や神奈川といった県外在住者で、購入時期は平成元年の分譲時だった。その後、まともな売買取引が行われた形跡はほとんどない。
およそ半数の購入者の所有権には、所有権移転と同時に抵当権が設定されていた形跡がある。異なる購入者の抵当権の債権者が、ほぼすべて同名の信販会社になっているので、彼らは開発業者が手配した金融業者で、購入者はこの信販会社から購入資金を借り入れて土地を購入したのであろう。
その抵当権の債権額は、人によって若干の差はあるが、1200万円~1560万円。頭金を用意していた可能性もあるので、この債権額がそのまま土地の代金だと断定することはできないが、少なくともこの分譲地は、高い区画では1560万円の借り入れを行わなければ購入できなかった価格で売られていたということになる。単純に借入額が土地代金だと仮定しても、坪単価は40万円弱になる。
2023年4月27日現在、この分譲地がある横芝光町の玄関口、総武本線横芝駅より徒歩1分、つまり駅の目の前にあるコインパーキングが売地として広告に出ているのだが、その価格は216坪で2980万円。坪単価にして14万円弱である。
もちろん、バブル期と今の地価の差を比較すること自体はさして意味のある話ではないが、駅前ですらこの価格で売られるようになった現在、この田んぼの中にある放棄分譲地は、果たして一体いくらの値付けができるのだろうか。