議員への説明、根回し、国会と議員事務所の往復…

官僚の仕事は多岐にわたるが、最大の仕事は法案の策定にほかならない。各省庁に蓄積された法律に関する膨大なデータベースと法案策定の経緯、プロセスなどを官僚は独占している。「ご説明」と称する政治家への根回しや国会答弁、質問主意書の作成も官僚の独壇場だ。「国会会期中は現場待機が多く、永田町の国会議員事務所を訪ね、事前に質問取りもしなければならない」(某中央官庁キャリア)。

国会の各委員会に所属する議員、とくに理事に対しては、国会に設置された各省庁の出先事務所からエリート官僚が議員事務所に日参してサポートを欠かさない。また、同じ部署が長く実務に精通したノンキャリは、行政の「生き字引」で膨大な経験則とデータが頭に蓄積されている。まさに日本最大の「シンクタンク」といわれるゆえんだ。

法案には議員立法もあるが、それとて「官僚のサポートなしには策定は不可能」(野党幹部)とされる。いずれも対面のコミュニケーションが欠かせないのはもちろん、与野党それぞれの思惑をくみ取りつつ、しっかりとした法案を策定するには針に糸を通すような緻密な作業が求められる。

国会議事堂
写真=iStock.com/Mari05
※写真はイメージです

今の段階で「チャットGPT」を導入しても、法案策定には直接関わらない、例えば議員との打ち合わせなどの資料集めには役立つかもしれないが、永田町政治がモノを言う国家公務員の世界で、長時間労働の削減につながる可能性は低いと思われる。

「公の機関が使うレベルに達していない」

対話型AIについては、こんな懸念もある。国立情報学研究所の佐藤一郎教授は時事通信の取材に「国会答弁の文章を作る手間を省くなどメリットもあるが、作成の際に読み込んだ行政情報が外部に出てしまうリスクもある」と指摘している。

実際、「チャットGPT」をめぐっては、欧州を中心に逆風が強まっている。G7メンバーのイタリアは3月31日、チャットGPTへのアクセスを一時停止し、個人情報保護法に違反する可能性があるとして調査を開始した(28日、オープンAIは当局の要請に応えた結果、利用を再開すると発表)。ドイツやフランス、アイルランドも禁止を検討している。

こうした懸念する声は政界でも上がっている。日本維新の会の馬場伸幸代表は4月20日の記者会見で、「チャットGPT」に関し「官公庁で使うにはまだまだ検討する事項がある。慎重な判断を求めていきたい」と述べた。馬場氏は「発展途中でセキュリティーの部分での懸念がある。公の機関が使うレベルに達していない」と指摘し、「運営会社の責任等のルールを作った上で使っていかなければならない」と語った。