「若さ」というハンデを超えることば

ところが『企業参謀』が出版されてものすごい勢いで売れ始めると異変が起こった。「我が社にも企業参謀が必要」ということで、企業からの問い合わせがマッキンゼー東京事務所に殺到するようになったのだ。

それも支社長やパートナー(上級職。マッキンゼーは株式公開せず、パートナーが株を持ち共同経営する仕組みになっている)が世界から何人かきているのに、ヒラのアソシエイトである大前研一をご指名でミーティングの要望が持ち込まれてくる。これはもう世界のマッキンゼーにとっても天変地異に等しかった。

今までいくら提案書を書いてもたどりつかなかった社長や役員クラスの有力な意思決定者が次々とやってくる。月額2500万円のフィーに仰天する人たちではない。プロジェクトの実効性から1億円や1億5000万円の提案書を書かざるを得なくなっても、皆、ケロッと採用してくれる。今までの苦労はなんだったんだ、という感じである。

すべては『企業参謀』効果だった。

「うちもこういう戦略を作らないといけない。是非、若い人を教育してください。ウチだったら先生の言う『企業参謀』を5~10人は作らないといけないでしょう。彼らが会社の将来を背負って立つと思えば安いもんですよ」

常識外れのコンサルティングフィーが、いつの間にかお値打ちになってしまった。使用前・使用後ではないが、それぐらい『企業参謀』のインパクトは絶大だった。

プレジデント社の守岡(道明)さんから「本にしましょう」という話をもらったとき、仕事の状況は最悪だった。無駄な提案書を書くことに飽き飽きしていた。

守岡さんが付けた仮タイトルは『新人コンサルタントの学習手帳』のような感じだったと思う。まさに内容そのものである。しかし、若さがハンディキャップになっていた私が直感的に思い付いたのは、『企業参謀』というタイトルだった。

必要な分析や戦略を立案するのが参謀の役割。参謀が出した“答え”を採用するかどうか意思決定して、成果を出すのは経営者の仕事である。

「参謀なんだから、若くても答えを出せばいいでしょう」と言いたい気持ちが強かった。むしろ若ければ若いほど体力も瞬発力もあるから、労を惜しまずに情報を集めて、ギリギリまで分析し、代案をいくつも考えて、その中からベストの戦略をトップに提示できる。そんな若き「企業参謀」がこれからの日本企業には必要なのだ——と本の中で説いた。

縁の下の力持ちとして、あるいはトップの懐刀として、ここまでやるのだということを言いたかった。そういう戦略的思考集団を社内に育てればトップも少しは楽できますよ、と経営者に向けて発信したかった。

それを端的に言い表す表題が「企業参謀」だったのだ。

次回は「『企業参謀』誕生秘話(3)——マッキンゼー本社の「横槍」」。8月20日更新予定です。

(小川 剛=インタビュー・構成)