何も注意を払わないことが、私たちの脳の初期設定
神経科学者にとってこの結果は、まったく驚くに当たらない。私たちの脳が多くの場合、いかに怠惰であるかを知っているからだ。モチベーションは、神経科学的に万能薬とも言えるものだ。何かを気にかけ、関心を持つだけで、ほとんどすべてのことで脳の能力が向上する。ほぼすべてに何も注意を払わないことが、私たちの脳の初期設定だからだ。
ボストン大学教授で、同大学の「注意学習研究所」の共同設立者であるマイケル・エスターマンはこう述べている。「人は、『好きだから』という内発的動機や、『賞がもらえるから』という外発的動機によって、脳の活動レベルをよりうまく一定に保つことができ、さらに、予想外の事態にもより良く備えられるということは、科学的に証明されている」
というわけで、人の心を読み取る力を向上させる第一歩は、興味を持つことだとわかった。だが問題は、たとえモチベーションが十分にあっても、この能力を改善できる程度は限られるということだ。
心を読むより「本音が出やすい環境をつくる」が正解
では、私たちは日常的に人を誤って解釈するもので、それを防ぐ手立てはほぼないと受け入れるべきなのだろうか? そんなことはない。人を読み取る自分の能力はあまり変えられないなら、相手の話し方を変えさせることに重点を置こう。
テレビで観るシャーロック・ホームズのように相手を分析するかわりに、相手の感情を誘いだす必要がある。そのために真っ先にすべき簡単な方法は、本音を引きだせるように状況を操作することだ。
誰かといっしょにお茶を飲むのと、いっしょにサッカーをするのでは、どちらが多くの情報を引きだせるだろう? お茶だけでもさらなる情報を得られるかもしれないが(相手の話を信用できれば)、サッカーなら、相手がどんなふうに意思決定をし、戦略を組み立て、ときにルールを破るかどうかなどの情報が自ずと示されるかもしれない。さまざまな刺激をあたえればあたえるほど、相手の人となりに関してより多くの面が明らかになってくる。