「適材適所は、才能集団にまさる」

一人一人の打者が個別に存在する「打点」ではなく、全員がそれぞれの役割をまっとうして有機的なつながりを持つ「打線」であることの重要性を野村は説いていた。

リードオフマンを託されていた稲坂も口をそろえる。

「僕のような一番打者だけではなく、“各打者にそれぞれの役割がある”と、監督はいつも言っていたし、それは特に徹底されていました」

第2回でも紹介した『野村克也全語録』には、こんな一節がある。

適材適所は、才能集団にまさる

野球の打順には意味がある。単にレギュラー選手を調子のいい順番や長打力のある順番に並べているわけではない。

より得点能力が高まるように、前後の打者とのつながりを考えて並べているのだ。だから「打線」といわれる。線になることで、より相手バッテリーにプレッシャーをかけることになる。

まさに、港東ムース時代に少年たちに説いていたことである。

教え子に遺した「野村ノート」の中身

ヤクルト監督に就任後、選手たちを前にして野村はこんな考えを披瀝ひれきしている。当時の選手から入手した「野村ノート」より抜粋してご紹介したい。

【打順の適性と打順の考え方】

一番打者……出塁率が高い。ミートがうまく三振が少ない。バントがうまい。緻密で自制心がある。
二番打者……バントがうまい。バットコントロールがよく右方向に打てる。追い込まれても苦にしない。足も速い方がよい。自己犠牲を努めてできる。
三番打者……長打力があり、高打率を安定して残せる。責任感も強い。
四番打者……チームで極めて信頼がある。長打力があり、必要に応じて単打も打て、勝負強い。自己顕示欲が強く、責任感も強い。
五番打者……四番打者を生かせる好打者。長打力があり、勝負強い。
六番・七番打者……意外性。型破り。走者を置いて打席に立つことが多いから小型の四番打者。
八番・九番打者……九番に投手が入るケースが多いから次打者に代打が出るかどうか確認する習慣を持つ。二死走者なしでも出塁する努力をせよ。

改めて見ると、「一番・稲坂匠、二番・平井祐二、三番・田中洋平」と並ぶ同級生トリオは、まさに野村の考える理想の「打線」だったということがよく理解できる。

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