3月27日、中国のEC最大手アリババグループを創業した馬雲(ジャック・マー)氏が、中国に帰国したことがわかった。なぜ当局に拘束されるリスクを承知で、帰国に踏み切ったのか。ジャーナリストの高口康太さんは「ジャック・マー氏を国外に追い出す形になったことで、中国のIT業界は勢いを失ってしまった。それに焦った中国政府が、成長の起爆剤として帰国を要請したのではないか」という――。
なぜリスクがあるのに帰国したのか
3月27日、ジャック・マーが中国に戻った。自らが設立した浙江省内の学校を訪れ、その様子が学校のSNSに掲載されたのだ。
中国のEC最大手アリババグループ(以下、アリババと略称)を創業したジャック・マーは、2020年末から姿を消していた。当時、中国共産党はアリババ関連のフィンテック企業アントグループのIPO(新規株式公開)を前日に差し止め、さらにアリババを独占禁止法違反の疑いで捜査していた。
一時は当局に身柄を拘束され、起訴を待つばかりとの噂が広がっていた。その後、欧州や日本などに滞在している姿が目撃され拘束説は否定されたが、今度は「もう中国に戻ることはないのでは」と言われるようになった。帰国すれば今度こそ拘束されかねない。そのリスクを冒すことはないだろう、という見方だ。
中国富裕層が危険を逃れるため海外に移住するのは珍しい話ではない。たとえば、大手動画配信サイト・楽視網の創業者である賈躍亭(ジャー・ユエティン)は、2017年に突然中国国内の役職をすべて辞任し、米国を訪問。その後、現在にいたるまで帰国していない。楽視網が破綻したこともあり、中国当局は帰国命令を出したが、「来週には帰国する」と繰り返すばかりで現在まで帰国していない。
ジャック・マーは役職上では引退している。リスクのある帰国は本来ならば不要だ。ならば、なぜこのタイミングで帰国したのか?