飢えたロシア兵は食料を略奪してから店を破壊

ブチャで、スーパーマーケットを取材した。

砲撃を受けてぐちゃぐちゃになっている店内には、商品の残骸がまったくない。ロシア兵が事前に押し入って略奪していったのだろうか。ここではないが、キーウ近郊の店内を荒らす映像が防犯カメラに残っていることからも想像できる。

ロシア軍は補給が不十分であるため、占拠した先の食料を奪うことで空腹を満たしていたのだ。他でも聞いたが、自宅に入ってきたロシア兵が「食い物はあるか」と言ったという話はブチャでもあった。破壊行為や残虐行為の前に、先立つものは食べものである。

佐藤和孝『ウクライナの現場から』(有隣堂)
佐藤和孝『ウクライナの現場から』(有隣堂)

しかし、腹が満たされれば、ロシア兵は一般市民の住宅でも略奪行為を始める。ある集合住宅では、住民全員がシェルターのなかに押し込められ、「外に出たら殺す」とクギを刺された。その間に各戸を回り、貴重品などの金目のものを物色し、奪い去った後は滅茶苦茶に破壊していくのだ。

ロシア軍が去った後も、ブチャの住民の食料難は深刻だった。ボランティアが入ってパンの配給などを始めていたが、一つのパンに多くの住民が手を伸ばして欲しがっていた。私が入ったのはロシア軍が撤退してから間もなかったため、今では食料事情はずいぶん改善しているだろう。ウクライナの冬は厳しい寒さに見舞われる。ロシア軍は継続してウクライナの電力施設など市民生活に必要なインフラに、ドローンや巡航ミサイルで執拗しつように攻撃を仕掛けている。

生き残ってから、「生き続ける」戦いが待っている。

見たこともないような大量の戦車の残骸

ブチャの街では、住宅街に破壊されたロシアの戦車の残骸がたくさん見られた。アメリカの歩兵携行式多目的ミサイル「ジャベリン」や歩兵用の対戦車ロケット砲が十分に供与され、一気に劣勢の戦局が挽回された時期にやられたのだろう。

今回のウクライナ侵攻で、ロシアは大量の戦車を投入したが、ミサイル攻撃を受けると上部の砲塔部分が吹き飛ぶため、「ビックリ箱」と揶揄された。ロシアの戦車は、なるべくコンパクトに作って被弾のリスクを回避し、さらに鉄道で数を輸送できる便を図った設計思想のため、とくに砲塔が弱いという。

欧米の戦車なら「ビックリ箱」にならないと断言はできないが、これまで40年以上にわたって世界の戦場や紛争地域を取材してきたが、ブチャでもイルピンでもこれほど大量の戦車の残骸を目の当たりにしたのは初めてだった。