名人と呼ばれる人たちも昔は頭で考えていた

わたしたちは論理ではなく、感覚でものごとを選択するとき、脳内では「大脳基底核」という部位が発火していることがわかってきています(※2)

大脳基底核は、原始脳のなかの奥深くに位置する、もともと運動の記憶を保存している部分です。

たとえば、わたしたちがまだ小さい子どものころは、ボールを投げてもうまくキャッチできません。しかし、何度もボールを投げているうちに、だいたいこの辺に落ちるのかなということを学習していきます。

男の子はリビングルームで母親と父親から賞賛を受けました
写真=iStock.com/takasuu
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じつは大脳基底核は、そのような運動の記憶を保存する場所として考えられています。

そして、この大脳基底核は、直感をつくり出している場所でもあることが近年わかってきています。

先ほど、将棋の名人ほど次の一手が感覚で出てくると述べましたが、そのときに大脳基底核が発火します。

一方で、アマチュアの棋士の大脳基底核は活性化していなかったそうです(プロ棋士28名とアマチュア棋士34名の脳の状態をfMRIでスキャンした結果、プロ棋士ほど大脳基底核が発火していました)。

ここで面白いのは、名人と呼ばれる人たちも昔は頭で考えていたということです。しかし、対局を通していろいろな戦法を経験するうちに、なぜか最初にこれだという一手が出てくるようになったと言います。

大脳基底核には、これまで本人が経験してきたこと、蓄積してきた知識が保存されていて、その膨大な情報のなかから最適な答えを見つけるという機能が、じつはそなわっているからです。

そのため、理論的に思考するよりも早く最適な手を見つけ出し、対局の流れを読みとることができるのです。

「根拠のない自信」の根底にあるのは、過去の経験や知識

こうした「直感バイアス」は、一流選手や将棋の名人でなくとも、日常的に体感しています。

たとえば、はじめて会った人で、話す言葉はいいことを言っているのに、「この人は、なんか怪しい」と思ったことはないでしょうか。実際にあとになって人に話を聞いてみると、ウソを平気でつく人で評判が悪い人だったという体験もあるかもしれません。

これは、脳が、過去に出会った人たちの情報を覚えていて、データベースから「こういう特徴をもっている人はウソをついたり、だます人が多い」という正しい情報を検索してくれるためです。

ですから、たくさんの人と会った経験のない子どもは人を正しく判断することができません。

「あの人は、仲よくなれそう」と感じるときも、それはわたしたち1人ひとりの経験の蓄積から下された認知。「直感バイアス」と言えるものです。

ただし、ここで注意すべきことがあります。それが「直感バイアス」を尊重しすぎて、あまりにも自分の感覚を100パーセント信じてしまうと、逆に誤った判断をしてしまうことがあることです。

なぜなら、直感には大きく2種類あって、本当の直感と、自分をだましてしまう誤った直感があるからです。

たとえば、以前Aさんに誘われたパーティがビジネスの勧誘目的で嫌な思いをしたとします。そして、今回はBさんにパーティに誘われました。

すると、Aさんの経験があるので、今回もだまされるんじゃないかと感じてしまいます。結果パーティに行かないという選択をします。

でも、ここでよく考えていただきたいのは、AさんとBさんはまったく違う人だということです。

Aさんがパーティに誘ってきたらもちろん行かないほうがいいですが、Bさんが誘ってきたパーティなら、何か大きなビジネスや新しい出会いのチャンスがあったかもしれません。