こうした状況を踏まえ、ファーストリテイリングが賃上げに踏み切ったのは正しい。ただ、最大40%の引き上げ程度では、まだ安いと言わざるをえない。さらに世界標準に近づけないと、日本企業は優秀な人材を高待遇の外国企業に吸い取られて、残るのは世界で通用しない“ローエンド”の人材ばかりになる。

問題は、賃上げをしたくても、その原資がないことだろう。ファーストリテイリングはSPAで収益率が高いこと、そもそもアパレル業界が薄給であることから最大40%の賃上げが可能だった。しかし収益率の低い一般の日本企業に同じマネはできない。賃上げしたければ、何とかしてその原資をひねり出す必要がある。

日本人が越えられない3つの壁とは

賃上げの原資を確保するために欠かせないのが「生産性の向上」である。単純な話で、今まで10人でやっていた仕事を半分の5人で処理できれば、人件費の総額を増やすことなく1人当たりの給料を倍にできる。

特に生産性向上の余地が大きいのは間接業務だ。日本企業はこれまで製造現場の効率化を得意としてきた。おかげで20世紀の工業化社会ではチャンピオンになれたが、ホワイトカラーの仕事に関しては依然としてムダが多い。さまざまな入力を手作業でやり、結論の出ない会議のためにぞろぞろと集まり、果ては課長が外回りの社員の代わりに社内で電話を受けて「誰々さん、お客様から電話があったよ」と伝言をする。給与の高いマネジャーが誰でもできる電話番をしている国は、世界広しといえど日本だけ。この問題を解決しないかぎり、賃上げは困難だ。

では、どうすれば間接業務を省人化できるのか。

答えの1つはDX(デジタルトランスフォーメーション)だ。間接業務のうち頭を使わないものはRPAで自動化できるし、頭が多少必要なものも、今はAIにやらせたほうが正確で速い。ところが、日本企業の多くはこうしたツールを使いこなせていない。生産現場では積極的にロボットを導入するのに、デスクワークになると途端に及び腰になってしまうのだ。

その根本原因は、多くの企業において、直接工ではうまくいった作業標準化(SOP〔作業標準書〕の整備)が間接業務ではできていないからだ。さらに掘り下げて考えてみると、業務が属人的で、もっといえば英語圏では20年ほど前から進んでいたIT化に日本語がなじまなかったことがある。

さらに社内にDX要員が足りないということで外部の助けを求める。そうすると、システムをつくるベンダーにいいように牛耳られてしまう、という問題がある。