私たちの身の回りでも、同じような例は珍しくないでしょう。宝くじに当たったのに当選メールを見逃したり、友人から役立つ助言をもらったのを忘れたり、ネットで見かけた仕事に役立つ情報をスルーしたりと、人生に起きた良い偶然に気づけないケースはいくらでも存在します。
実験参加者の8割が「金の生る木」を見逃した
この「察知」のスキルについては、ウェスタン・ワシントン大学がおもしろい調査を行っています(7)。研究チームは、以下の手順で実験を行いました。
①背が低い落葉樹の枝に、1ドル札を3枚挟む
②木の下を通った学生が、お札の存在に気づくかを調べる
1ドル札が置かれた高さは地面から175センチほどなので、よほどのよそ見でもしない限りお札は目に入ります。つまり、視界に必ず紙幣が入る状況を作ったうえで、学生たちが「金のなる木」を認識できるのかを確かめたのです。
実験を行う前、歩きスマホが珍しくない現代でも、さすがに目の前に垂れ下がった紙幣を見逃す学生は少ないだろう、と研究チームは予想していました。
ところが、現実は予想の真逆で、紙幣に気づいたのは全体のたった19%にすぎず、歩きスマホをしていた人に絞ると、6%までに下がりました。
80%以上の参加者は、目の前に垂れ下がった紙幣を目にしながらも「異常はない」と判断し、金のなる木をスルーしたわけです。
幸運な人は“察知力”が高い
このような、視野に入ったはずのものに気づけない現象は「非注意性盲目」と呼ばれ、1990年代から何度も確かめられてきた心理メカニズムです(8)。
私たちの心理に非注意性盲目が備わった理由は、脳の処理能力に限界があるからです。もともと、ヒトの脳は、周りの景色、音、匂いなどのデータをつねにとり入れ、「これは役に立つ情報か」を判断しています。この機能がなかったら、あなたは新しい情報の存在に気づくことができません。