「これは裏ワザですが、車で送り迎えするときが、意外と会話のチャンスですよ。うちは、娘が高校生のときに飲食店でアルバイトをしていて、行きは妻が送り、帰りの迎えは私が行っていました。車は顔と顔を見合わす必要がないから、話しやすかったですね。娘には、忙しい親に迎えにきてもらった、という負い目もあるし。『バイト大変そうだけど、よく頑張っているな』と、娘のことを認めながら話していけば、『今日、こんなお客さんがいて』なんて、自然に話してくれます。ただし、そこでたとえ愚痴になったとしても、『おまえがバイトをしたいと言ったんじゃないか』とか、『こんな時間までバイトばかりして。勉強がおろそかになってるんじゃないか』なんて説教をしてはだめですよ」

たしかに、普段は言いにくいことも、車の中だとさらっと話せたりするな。

「不機嫌そうな娘を見ているのは、親としてあまり気持ちのいいことではありませんが、娘が自分のいい面も嫌な面も出せるのは、そこに安定した人間関係があるからこそです。なかには親にはいい面しか見せないという、いわゆる“ファザコン”のお嬢さんもいますが、そういう人に限って、家庭から出ると、彼氏や夫につらくあたったり、暴力をふるったりしてしまうことが多いんです。娘が思春期で反抗的だ、相手にしてくれない……なんて愚痴を言っているくらいがちょうどいいんじゃないでしょうか」

思春期というのは成長の一つの過程。アタフタせずにどっしりと構えてやる度量が、親、とくに父親には必要なんだろうな。そして、「子供」じゃなくて、一人の人間として接するということ。

「えーと……」と言いながら明橋先生がカバンからごそごそと手帳を出された。思春期の頃、どんなお父さんでいてほしいと思っていたかを娘さんに聞いてきてくださったのだという。

「まず『娘に強いパパになろうとしなくていい。頑張りすぎるお父さんはかえって暑苦しい。大切な話はちゃんと聞くから、娘には弱いパパで大丈夫』。次は、『大切なのは話しかけることじゃなくて、気遣い。無神経に体形の話なんかするのは最低』。最後は、『ママを大切にして。パパとママが仲良くしていたら、娘は安心だし、気分もいい。二人の仲が悪かったら、こっちまでイライラしちゃう。ママをちゃんとサポートしているパパってすてきだと思う』ということだそうです。母親と娘は同志ですからね。ママの味方=自分の味方ということだと思います」

うーん、痛いところを突かれた。しっかりした娘さんですね。

「実はね、この前の父の日に、娘たちからプレゼントをもらったんです。焼酎用のカップ。父の日のプレゼントなんて、娘が小学校のとき以来ですからね。泣きたいほどうれしかったですよ。皆さんにもきっとそんな日がきますから。つらいでしょうけど、それは我慢して。寂しさに耐えることも、父親の役目ですよ」