なぜ燃料電池車は普及しないのか?

テスラのイーロン・マスク氏はFCVに否定的であることで知られている。これまで公の場で何度も「燃料電池(fuel cells)はバカ電池(fool cells)」という趣旨の発言をしている。

FCVの何が問題なのか。

まず、水素は極めて効率の悪いエネルギーの媒体である。地球上には使える形の分子状水素(H2)はほとんど存在しないため人工的に作る必要がある。

本当に環境にやさしい「グリーン水素」は水の電気分解で作るしかないが、その際に大きなエネルギーが必要になる。

また、その水素を数百気圧に圧縮する過程でも、大量のエネルギーを消費する。

最後に水素を空気中の酸素と反応させて電気を得るのだが、そこでもエネルギーロスが生じる。

結局、電気で水素を作りその水素でまた電気を作るという無駄なプロセスを回すことになるので、その間にエネルギーの70%が失われてしまう。

一方、発電した電気をバッテリーにためてEVを動かせば、充電・放電で合計10%程度のロスで済む。つまり、90%の電気が有効に使えることになる。FCVとEVでエネルギー効率上の優劣は明らかだ(図表2)。

【図表】FCVvs. EV効率比較

また水素ステーションの建設には億単位の資金が必要である。しかも、そのステーションまで水素を定期的に輸送しなければならない。

水素ステーションの数は2022年末時点で、全国に160数カ所しかない。政府が2019年3月に取りまとめた「水素・燃料電池戦略改訂版」では、水素ステーションの整備目標は2025年度までに320カ所程度としている。

筆者は、320カ所という政府の目標は達成できないとみているが、仮に達成できたとしてもFCVの普及には「焼石に霧吹き」程度の効果しかないだろう。

トヨタはFCV以外にも水素エンジンの開発を進めているが、この水素ステーションの問題があるため、本格普及は難しいと見ている。