投資の全体最適化ができていない

2つ目の落とし穴である「『何らかの施策を上手にやる』以前の判断として『そもそも、どの施策に投資配分して展開するか?』や「『どの施策と施策の間の一貫性・連携が大切か?』という、施策への投資の全体最適化を担う指揮者が不在で成果が出ない」(図表3)についても見ていきましょう。

4 P 施策の選択・リソース配分が弱い
出典=『マーケティング思考』(翔泳社)より

売上を伸ばそうと何らかのマーケティング投資をする際、常にお金や人のリソースは限られます。それに対して「どの施策にどの程度配分するのか?」という投資配分の判断が、成果を出すうえで非常に重要です。同じリソースがあっても、商品の中身の改良、パッケージデザイン、広告、PR、店頭販促など、何にどの程度お金を使うのかの判断によって、成果は大きく変わります。

さらにいえば、メーカーが小売に卸して売るような商品であれば、小売側が売りたくなるような卸値設定、販売促進の支援、リベートの存在も、この投資リソースの配分にはかかわってきます。

施策に関する広くて浅い知識が必要

何らかの施策の専門家は、その施策には詳しくても、「そもそもこのタイミングで、どの施策から投資するべきなのか? 最適な投資配分はどの比率か?」の専門性や経験は備えていないことがあります。

また、仮にその判断をする知識や見立てがあったとしても、自分が担う施策の予算を削る方向の主張をする人は稀です。雇われていようが、外部の業務委託だろうが「自分が担う施策領域は、現在の事業局面で売上を伸ばすうえで重要ではない」などという話を自らする人はいません。

自らの仕事を失うリスクを負うため、口にしないのが常です。逆にいえば、これを正論として口にできる人は、仕事の引き合いに困らない自信がある腕の良いプロである可能性が高いです。

このように「施策候補を横並びで比較して、優先的に投資する施策を決める」には、それぞれ候補になる施策の知識がゼロでは評価ができません。

自分で実務を推進できるほどの深い知識は不要ですが、その施策で期待できる投資とリターンの金額の桁がずれないよう、施策を展開する場合の勘所くらいは押さえておかないと、全体最適の判断は難しくなります。つまり、施策投資の全体最適化の判断をするには、「施策に関する広くて浅い知識」が必要なのです。