つまり、移民といっても、数合わせのように量だけ確保しても駄目なのです。既存の国民との間で溝が広がるだけですし、本人たちにとっても大変な不幸を招きます。医療や年金といった社会保障の担い手になってもらうと同時に、国として付加価値を生み出し、稼いでいくという姿勢に寄与してくれる人材を受け入れないと意味がありません。
では、日本ではどんな人たちに来てもらえばいいでしょうか。私は以下に述べる3種類の人たちを積極的に受け入れるべきだと思います。
筆頭にあげられるのは、日本人とよく似た能力を持った人たちです。日本人はコンセプトを具体的な製品につくりあげたり、それを改善、改良していくのがうまい。わかりやすいのがパソコンや携帯電話です。元々のコンセプトは欧米から着たものですが、それを量産化や小型化するのが実にうまいのです。使いやすいサイズ、より便利な機能をやすやすと実現していきます。そういう、高度なものづくりを実現する能力をもった人が来てくれれば現場でも重宝されるでしょう。
2番目は逆の発想で、日本人が苦手な力をもっている人です。日本人はコンセプト作りという面ではアメリカ人には絶対かないません。マイクロソフトやグーグルの創業者たちは、パーソナル・コンピュータやインターネットを目にしたとき、「世界はどう変わるか」「世界を変えるか」を徹底的に考え抜いて次世代の産業をつくりました。そういうタイプの人も移民として大歓迎です。
3番目は、介護や看護など、定型化した仕事をこなしてくれる人材です。そういう人に任せるべきことは任せて、日本人は得意な分野、稼げる分野に集中する。2008、9年と、日本は経済連携協定に基き、インドネシアとフィリピンから看護師と介護士の候補生を受け入れました。彼らは病院や介護施設での研修を経て、国家資格の取得を目指しますが、その間、受入れ施設は日本人が従事する場合に受ける報酬と同等以上の報酬を支払い、日本の労働関係法令や社会・労働保険を適用します。人材不足の領域に良質の移民を受け入れるのです。
現在の日本に移民法がないのをご存知でしょうか。1950年代後半まで、移民といえば日本から海外に出て行く人たちのことでした。行き先はブラジルやペルーなどです。それから幾星霜が過ぎ、高度成長期を経て、日本は非常に豊かな国になりました。海外へ出稼ぎに行かないと生きて行けないような貧困もなくなった途端、海外から豊かな日本をめがけて来る就労者が増えました。
厚生労働省の推計によれば、2006年の外国人労働者数は合法的就労者数が約75万人、不法残留者の17万人を加えると100万人近くになります。不法残留者の多くは不法就労に従事していると思われます。10年前とくらべると外国人労働者の割合は4割ほど増えています。当然、不法就労者も増えています。政府はそこには目をつぶりつつ、移民に関する正式な手続きを整備しようとは考えません。
日本には出入国管理法はあっても、移民法はいまだにないのです。移民に抵抗があるなら、正式な日本国民ではなく、10年間有効の就労ビザを与えるというやり方でもいいと思います。アメリカでいうところのグリーンカードに近いシステムです。
そういう人も含め、頭が重くて不安定になった人口ピラミッドを補強し、下支えして欲しい。具体的には、医療保険や年金を支えてもらう必要があるのです。
ここまで言っても、移民や長期就労ビザに対してNOというなら、最後の手段は定年を70歳まで引き上げるしかないでしょう。
※この連載では、プレジデント社の新刊『小宮一慶の「深掘り」政経塾』(12月14日発売)のエッセンスを全8回でお届けします。
連載内容:COP15の背後に渦巻くドロドロの駆け引き/倒産に至る道:JALとダイエーの共通点/最低賃金を上げると百貨店の客が激減する/消費税「一本化」で財政と景気問題は解決する/景気が回復で「大ダメージ」を受ける日本/なぜ医療の「業界内格差」は放置されるのか/タクシー業界に「市場原理」が効かない理由/今もって「移民法」さえない日本の行く末