消しゴムに体操の動きをさせていたら人型に
競技としての体操に目覚めたのは遅かったですが、体操に全力投球した子供時代を過ごしていたのは間違いありません。ヨーヨーやプラ模型などをやっていた頃もあったとはいえ、友達と遊ぶようなことはほとんどなかったくらいです。
テレビゲームにも興味がなかったので、高校や大学の先輩に誘われてやったときには電源の入れ方さえわからなかったほどです。
ホメられることではないにしても、勉強する時間があるなら体操をやっていたいと、いつも思っていた。
授業中には、消しゴムをいじって体操の動きを再現しようとしていたのです。普通の四角い消しゴムがいつのまにか人型になっていました。削ってそうしたのではありません。体操の動きをさせていることで、頭の部分が丸くなり、ボウリングのピンのようになっていくのです。それくらいずっと消しゴムをいじっていました。
その消しゴムは、消しゴムとして使うわけにはいかなくなったので、体操用の消しゴムと文字を消すための消しゴムを分けて使うようになりました。今でも実家のどこかに体操用の消しゴムが残っているはずです。本当に人の形になっています。
絵を描くのも好きだったので、体操の動きの分解図やパラパラ漫画を描いたりもしていました。子供にしてはなかなか本格的なものだったといえる気がします。
漫画を読んで「自分にもできるんじゃないか」
漫画といえば、『ガンバ!Fly high』(原作・森末慎二、作画・菊田洋之)は、僕にとっては教科書のような存在になっています。
僕が5歳の頃から連載が始まった体操漫画です。アニメにもなったので、僕の前後の世代で体操をやっていた人はほとんどみんなが読んだり見たりしていた作品です。
すごくおもしろかった。
描かれている技は、森末慎二さん(ロサンゼルス五輪鉄棒金メダリスト)が監修しているので、比較的リアルでした。「自分にもできるんじゃないか」というモチベーションにもなっていたのです。
この漫画では演技中の“視界の問題”や“着地”もテーマになっていたので、共感できる面が多かった。
他のクラブの子たちと話をしていたなかで、「技をやっているときって、こういう景色が見えるよね」と言ったとき、「何も見えないよ」と返されたことがあったのです。
「えっ? 見えるのは僕だけなのかな」と不思議で、父親に話してみたら、「お前は空中感覚がいいのかもしれないな」と言われました。