たった一つの成功体験で500の技を覚えられた

体操にはおよそ800個の技があります。僕はそのうち500個の技ができます。体操競技では、ひとつの種目で使う技が最大10個なので、ほとんどの技を試合で使うことはありません。500個はトップ選手でも相当多い方だと思います。

その原点になっているのが蹴上がりです。蹴上がりができるようになった感動が忘れられなかったからこそ、500の技を身につけていくことができたのです。

オリンピックでやるようなG難度、H難度の技ができるようになったときの喜びは当然大きい。でも、蹴上がりができたときの喜びは、500の技のなかでも1、2を争うといっていいほどのものだったのです。

できなかったことがやれた! その喜びを知ることで、ひとつ上のステージにトライしていき、高い次元のことをマスターできるようになっていく。どんなことに挑戦するにしても、そういうものではないでしょうか。

一度、成功体験を得ることは、自分のやる気を高めたり、その後の練習効率を大きく上げることにつながります。社会人にとっての仕事の場でも、子供たちがスポーツに取り組む上でも、大きなポイントだと思います。

「うまくなくても好きだからやれる」気持ちが大切

小学生のうちは地方の大会で2位か3位くらいだったのですが、自分よりうまい子に勝ちたいという気持ちが徐々に芽生えてきました。

最初のうち、試合は好きではありませんでしたが、本来、僕はすごく負けず嫌いです。足が速いほうだったこともあり、運動会の徒競走では絶対に負けたくなかった。だから小学校低学年の頃も、試合で1位になりたい気持ちは薄くても、練習でやれる技のレベルに関しては、他の子に劣っていたくない気持ちは強かったのです。

遊んでいる感覚から練習している感覚へと変わってくると、なおさら練習に励みました。負けず嫌いだからということもありますが、それよりも体操が好きだから。

うまくなくても、好きだからやれる。どんなことでもそうなのではないかと思います。

たいしてうまくはなくても、どこかが少しでも良くなれば、その変化がうれしい。嬉しいからまた頑張る。そういう繰り返しのなかで、少しずつでもレベルアップしていく。当時の僕はまさにそうでした。

「好きなことを続ける」という図式が一度できると、応用がききます。勉強にもスポーツにも仕事にも変換できて、頑張れるようになっていく。

だから子供のうちは好きなことを見つけるのが大切になるし、大人になってからはやっていることのおもしろさを見つけて好きになれるように工夫することが大事なのだと思います。