ストロー廃止は非障害者中心主義だろうか

すべての人のためのデザインと障害者中心のデザインについて考えるのに良い例が「ストロー」をめぐる論争だ。

「障害と技術の話になぜストロー?」と思うかもしれない。環境破壊や気候危機への意識の高まりに伴って、プラスチック製ストローは使い捨て製品の中でも代表的な廃止対象とされている。ところがこのプラスチック製ストローが欠かせない人もいるため、ストロー廃止運動は、アクセシビリティーに対するニーズと環境運動の価値とが衝突する場となった。

2019年から、韓国のスターバックスの店舗ではプラスチック製ストローの代わりに紙製ストローを提供するようになった。続いてほかのカフェも環境にやさしいストローの使用に賛同しはじめ、繰り返し使えるストローや分解されるストローを使おうという認識が大きく広まった。テイクアウト用カップなど使い捨て製品の使用を禁止する環境部〔省に相当〕の政策とも相通じる動きだった。

一部の消費者が企業に「エコロジー」への取り組みを促す手紙を送ったところ、企業のトップがそれに回答するという例もあった。ある人がTwitterで「ストロー付き飲料に対する問題意識から、飲料パックから外したストローを集めて手紙と共にメーカーに送り返すというプロジェクトに参加したところ、思いがけず毎日乳業から返事がきた」というエピソードを紹介していた。多くの人がこの手紙のやり取りに共感し支持するとともに、エコ活動に賛同する意思を表明した。

「ないと困る人がいる」指摘に集まった2つの声

ところがほどなくして、その手紙の内容を引用したツイートが投稿された。「世の中にはストロー付き飲料しか飲めない状態にある障害者や高齢者、その保護者が間違いなく存在している。すべての人が何の問題もなく飲み物を飲めるわけではない」。

この指摘を受け、ストロー付きとストローなしの商品を両方販売するなど代案を考えてみよう、という意見が出た。その一方で、ストローが必要な人はそのつど店からもらうか、自分で持ち歩くべきだという意見も出た。これに対しては、障害者や高齢者が飲み物を飲むために一つ余分な手順を踏まなければならないのは、アクセシビリティーが保障されておらず不当だ、という反論の声が上がった。

ストローは万人のための発明品でもあり、弱者のための発明品でもある。ストロー自体は昔からあったが、飲み口近くが蛇腹になったプラスチック製の「フレキシブルストロー」は、もともと患者のために生産されるようになったものだ。1937年、ジョセフ・フリードマン(Joseph Friedman)は、幼い娘がミルクシェイクのストローに口が届かず飲みづらそうにしているのを見て、曲がるストローを作った。最初はそれを患者用に販売することを病院に提案し、のちには自分で会社をつくって本格的に生産するようになった。やがて曲がるストローの便利さは人々の知るところとなり、病院に限らず、レストランでも広く使われるようになった。

曲がるストローとアイスコーヒー
写真=iStock.com/dontree_m
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これはユニバーサルデザインや主流化の事例としてもよく取り上げられる。曲がるストローをはじめ、大量生産される現代のストローはたいてい薄いプラスチックでできているため、身体を動かすのが難しい人にとっては、人の手を借りずに飲み物を飲むための貴重な道具なのだ。