政府は社会保険の負担を減らす検討を

今、政府がやるべきことは、物価が上がり、インフレの芽が出ているのなら、消費を減退させないために、本気で所得を増やすことではないでしょうか。

この失われた30年、膨らみ続けている税金や社会保険料の負担を軽減することが先決だと思いますが、そのような議論や検討がされている雰囲気はありません。

ちなみに岸田首相は、閣僚の資産公開から株式は保有していないことがわかりました。「一億総株主」に何の説得力もありません。

すっかり解決していた「老後2000万円問題」

「老後2000万円」問題は、2019年、世の中にセンセーションを巻き起こしました。

2000万円という根拠は、2017年の総務省統計局「家計調査報告」から、夫婦高齢者無職世帯(年金で生活している世帯)の収入20万9198円から支出の26万3717円を引くと、毎月約5万5000円の生活費が足りない。

これを単純計算すると、老後30年間での不足額が約1980万円だった、から出たものです。

金融と資産
写真=iStock.com/Khanisorn Chaokla
※写真はイメージです

しかし、当時、内訳を見てみたら、ツッコミどころ満載のデータでした。一つをあげると、高齢者夫婦の食費が月6万5000円かかる計算になっています。年金世帯がどれだけ高級なものを食べているのでしょうか。

それぞれの世帯が置かれている状況によって実際の不足額は違うのに、「老後2000万円」という数字はわかりやすく、マスコミに取り上げられやすかったのでしょう。

「年金はだんだん減らすからね。支給年齢も上げるから、年金だけでは足りないよ」と国民に暗黙の了解を得ることで、「これから国は助けないよ。自分のことは自分で責任持ってね」と宣言する布石だったと思われます。

しかし、報告書は政府批判材料に使われ、当時の麻生太郎財務相が、「公的年金の問題を指摘したわけではなく、赤字という表現を使ったのは極めて不適切だ」と述べ、「そもそも報告書は存在しなかった」ことにして報告書を受け取らなかったというお粗末なやり方で、騒動は沈静化しました。「老後2000万円」作戦は失敗したのです。

消費支出を少し減らせば黒字になる

ここで、2020年の「家計調査報告」を見てみます。

夫婦高齢者無職世帯モデルケースの収入は25万6660円、支出は25万5550円で、なんと月1110円の黒字に。高齢単身無職世帯の収入は13万6964円、支出は14万4687円で、7723円の赤字になっています。

このように、ちょっと支出を減らせば黒字になり、まさにデータマジック。知らない間に「老後2000万円問題」はすっかり解決していました(図表1参照)。

いずれにしても、数字はモデルケースです。表と比べてみて、我が家の家計はどうなのかを知ることが大事。実際にもらえる年金の範囲でどうやっていくかを考えたほうが現実的です。