舞台監督に1000ドル握らせる

このような流れのなかで、YMO一行は8000人を収容する大型コンサート会場、ロサンゼルスのグリークシアターに到着した。

アメリカでは、メインアクトの演奏をより印象付けて聴かせるために、メインアクトが登場するまでは演奏ボリュームをしぼるということが慣習的に行われているのだが、YMOのようなインストゥルメンタル・グループの舞台でこれをやられては致命的だ。

そこで、舞台監督のマット・リーチに1000ドルの賄賂を握らせて、さらに「わざわざ日本から来た、ジェリー・モス肝いりのバンドなんだ。しっかり音を出さないと、ジェリー・モスが怒るぞ! ショウ・ビジネス界に出入りできなくなるぞ!」と念を押した。

観客のほとんどはマリファナか酒で酩酊

そしていよいよYMOの演奏が始まると、なんと1曲目から大喝采のスタンディングオベーション。

会場の熱気は3曲目あたりでピークに達し、そのまま最後の曲まで盛り上がり続けた。非の打ちどころのない大成功であった。

ロサンゼルスの夏の野外コンサートで集まる観客のほとんどは、マリファナか酒での酩酊状態であり、東京でのトミー・リピューマと同じ状態だったのだろう。

日本では空前のYMOブーム

現地には日本から音楽専門誌約10社の記者を連れていった。「A&Mのスター・アーティストをインタビューできるぞ!」と伝えていたのだが、それを目的に参加した彼らも、YMOの熱狂を目前にしてそれどころではなくなったのだろうか、「日の丸ガンバレ」気分で一斉にYMOの記事を書き日本に送った。

川添象郎『象の記憶』(DUBOOKS)
川添象郎『象の記憶』(DUBOOKS)

2日目と3日目には急遽ビデオ撮影班を編成し、記録した映像を日本に持ち帰らせた。それをさっそく村井邦彦がNHKに売り込むと、日本人が大活躍しているという明るいニュースに喜んだ。

NHKは15分ほどの特集放送をした。NHKの夕方のニュース番組は視聴率が20%を超える。つまり2000万人超の人々がこのYMOの映像を観ることになったのだ。

これが日本中にYMOブームをまき起すことになった。

グリークシアターでのライブが終わって、YMO一行はアメリカ各地でのライブ・ハウスでのプロモーション・ツアーを行った。

僕はその途中、日本でのアルバムの販売状況を確認するために東京の村井邦彦に電話をかけた。

村井は例によって至極呑気な間延びした口調で「なんか知らないけどライブのテレビ放映効果で売れ始めちゃってるみたいだよ。デイリー・セールが5桁だってさ!」

「ふーん……そうなんだ」

ツアーで疲れていためか、具体的な数字をイメージせずに聞き流していたのだが、冷静に考えると、一日5桁というのはとんでもない数字である。

日本では空前のYMOブームが起きていたのだ。

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