やりたいのは、人や街が変わることができる「仕掛けづくり」

――もともとこのコーナーは企画段階では名前が違ったんですけれど、お呼びするヒトたちのお話を聞いてコーナー名が変わったんです。「好きをカタチにする」人聞録って。

いや、意識して喋ったわけではないんですけれどね(笑)。

ただし、これを読む人には若い人も多いと思うので伝えておかなくてはならないのは、若い人には「まず目の前の仕事をできるようになれ」と言いたい。そうでないと「好き」をやってもその「好き」をカタチにできない。そうするとそれを世の中のせいにしてしまう。これは不幸です。

――杉山さんが好きをカタチにできるようになったのはアクセンチュアの下積みのおかげ、と。

そうです。アクセンチュアは、“できないんだったらうちの会社にいてくれなくっていいんだよ。やめていいんだよ”と、ある意味でとても優しい会社だったので、仕事の基礎体力はつきました。結論として、自分をストレッチできる人でないと、やりたいことなんかできないのだと思う。

――こういう企画を表面的に捉えると、間違った若者が増えてくるわけだ。

やりたいことをやるっていうのはすごく大事なんだけれど、そのために基礎体力が必要と言いたいですね。言われたことすらできない状態で自分のやりたいことなんて絶対できないぜ、と伝えたい。もちろん一部の天才的な人は違うのでしょうけど。僕のような普通の素養しか持っていない人であれば、素直な奴しか大成しないように思います。若い頃は「いいからやれ」を、素直にできる人でないとダメ。型がはまらないと応用問題はできない。「なんでやってるのか、わからない」なんていうことをいわずに、まずは、やる。それが普通にできるようになった頃になってはじめて「なんで」がわかるようになると思う。

――この対談を読んで自分もやってやろうという人が出てくる。それはこの企画の本意なのですが、その場合でも、まずは自分の「型」をつくってきてほしいということですね。

おっしゃるとおりです。本当に1つのことを真摯にできる覚悟があるのか自分に問いかける必要がある。楽しいことばかりではないですから。そうやって楽しくないこともして、柴田さんのおっしゃる自分なりの「型」ができてからでないと、好きをカタチにしようとしても基礎体力不足でうまくいかないことが多いのではないかと。

――昔から言われている「守破離」の話と一緒ですね。

ですね。僕も最近、講演を頼まれるとまさに「守破離」の話をしています。

――ところでツイッターを見ると最近よくタイにいるみたいですが、いったい何をやっているのですか。

ずっと福岡で町おこしをやってきたのを見て、佐賀県武雄市の樋渡市長が僕に興味をもってくれまして。全職員にツイッターIDを取らせて発言させようと思うんだけれど、一度会ってアドバイスをもらえないかとお声がかかりまして、お目にかかったところ意気投合しました。

その後、武雄市の仕掛けるIT関連のものがあるとまず一番に相談を受ける存在になっているんです。その中にタイと仕掛けるものがありまして、だからよくタイにいるんです。パキスタンにまで随行しました(笑)。

今、樋渡市長はフェイスブック市長と呼ばれていますが、武雄市はホームページをやめてすべてフェイスブックに変えています。それも樋渡市長ご自身がよくおっしゃっているのですが、まさに「丸投げ」されて(笑)、僕らでつくりました。

近頃はそれに加えて特産品を各自治体と連携して販売する仕掛けもつくっています。フェイスブックとひっかけてFB(Fun & Buy)。ここには近いうちに陸前高田も参加すると思います。この仕組みは被災地にも向いています。

――なるほど。 とうとう海外進出かと思いました。

いやいや(笑)。ただしソーシャルネット系の新しいサービスを今考えていて、これは特に日本で拘るつもりはなく、はじめから世界を見てつくる予定でいますので、その意味では海外進出を狙ってはいますけれども。

結局今僕がやりたいことって、人や街が変わることができる仕掛けづくりなんです。僕なんかが言うのはおこがましいですが、対談も最後ですので(笑)、あえて人にどう変わってほしいかを語るとすると、自分の頭で考える人に変わってほしい。「すべてのことは自分に帰着する」、今ここに自分が立っているのは自分が起こしたことの結果でしかない。自分が変えられるのは自分だけ。それをわかってもらいたい。そんなふうに街に住む一人ひとりが自分の頭で次の人生を考えることができるようになると街も変わっていく。街が変わっていくことを実感することで、自分もさらに変わっていく。そんな好循環が起こるような世の中の仕掛けづくりをやりたいんです。……ちょっと端折りすぎてうまくまとめられませんが(笑)。

――いいですねえ。それはずっと続けていきたい?

はい。自治体支援でも、サービス構築でも課題にしていきたいですね。

――本日はありがとうございました。

<柴田からの提言>

杉山さんのように枠にはまらない人にも下積み時代がありました。四の五の言わずに、言われた仕事をやる、しかも大量のそういう仕事をこなす。その時の経験が彼の言葉で言うところの基礎体力づくりとなっています。好きなことを自由奔放にやるには、それなりの基盤づくりが必要。このことを再認識させてくれますね。

次回は、番外編。ツイッターを始めた孫正義氏から3番目にフォローされたのがきっかけで、「ツイッター高校生」と呼ばれて一躍有名になった青年のお話です。

(柴田励司=聞き手 高野美穂=構成)