Q 新卒の就職活動でマスコミ業界を希望していましたが、メーカーや金融など異なる業種からしか内定が取れませんでした。就職浪人すべきでしょうか?(学生、男性、23歳、入社前)


A テレビ局や商社など特定の業種・業界に強いあこがれを持ち、そこに就職できないと翌年まで就職を見送る人がいます。しかし、学生時代に自分の人生のミッションを見つけることができた幸運な方は特定の業界にこだわる必然性もあるとは思いますが、そういう例外的な方は別として、それが「希望」という程度のものであれば、僕は基本的に就職浪人をしないほうがいいと思います。

なぜなら新卒でいわゆる「いい会社」に入ることに、それほど大きな意味はないからです。たとえ希望職種ではなくても、自分が納得いくだけ動いたなら、内定をくれた会社のどれかに入ることをおすすめします。

学生のとき「いい会社」「やりたい仕事」だと思っても、実際に仕事をしてみたらイメージと違ったということは少なくありません。いまは「マスコミ以外考えられない」と思い詰めていても、成長とともにやりたいことは変わります。むしろ変わるのは成長の証しかもしれない。だから「やりたいことはウソをつく」と思っておくくらいで丁度良いかもしれません。

アルバイト経験などを除けば、学生が企業を判断する材料は、ほとんどイメージしかありませんし、アルバイト経験だけで判断材料を得られる業種も限られています。よく「大学生が選ぶ就職したい会社ベスト10」とか、「人気企業ランキング」などというものがあります。しかしそこに名を連ねるのは、消費者向けのビジネスをしている企業がほとんどです。どんなによい会社でも、企業対企業(B to B)のビジネスをしているところはまったくランクインしません。

また、このランキングは時代の移り変わりとともに激しく入れ替わります。いまは景気のいい企業がズラリと並んでいますが、10年前、20年前のランキングを見ると、倒産や合併を経て消滅してしまった企業がたくさん見つかります。ということは、いま輝いている会社に就職浪人をしてまで入ったとしても、その会社や業界が自分の定年まで存続するという保証はどこにもないのです。

つまり学生は自主的に入りたい会社を選んでいるつもりでも、実は広告費をかけている露出度の高い会社や、消費者として馴染みのある会社しか選べていないということです。換言するなら、「学生の人気企業ランキング」とは、「周囲から『いい会社に入ったね』と言われるランキング」なのです。

それに就職は結婚と同じく需要と供給の兼ね合いで決まりますから、どうしても時の運に左右されます。日本では就職だけでなく進学も「入り口での一発勝負」が当たり前ですが、一時期の運・不運や、若くて世の中がまだよく見えていないときの判断で一生を決めてしまうのは、実はとてもリスキーなことです。

それより人生のどの地点に能力の頂点である「ピークパフォーマンス」をもってくるかを考えたほうがいいと思います。

日本ではピークパフォーマンスを、入学や入社など、入り口にもってくる傾向がありますが、これでいいのかどうか。

たとえばプロ野球選手ならピークパフォーマンスは20代~30代。しかし経営者なら60代~70代でピークを迎えている人が多い。世の中を見渡してみると、50代、60代でピークを迎えている人はたくさんいます。
希望の会社に入社したことで満足してしまい、あとから振り返って「あれが自分の人生の一番のピークだったな」となるのは空しすぎる。

もっとサラリーマン人生をトータルでとらえて、リタイアするときにサラリーマン人生の総決算が最大値になるよう設計したほうがいい。いわば「入社時の価値」よりも「生涯価値」で判断したほうが、充実した働き方ができる。こう考えれば、新卒でどんな会社に就職するかは、それほど大きな問題ではないということになります。

それに若いときは見えないかもしれませんが、プロフェッショナルサラリーマンとして、もっと上を目指すようになると、「頂上近辺では、業界の垣根などないに等しい」ということが見えてきます。ある業界で成功を収めた人が是非にと請われてほかの業界に転職するなど日常茶飯事。企業は金太郎飴のような人材より別の業界で経験値を積んだ人をほしがるからです。

まずはご縁のあった企業で実績をつくり、その実績が自信に変わるところまでどっぷり身を沈める覚悟でご縁を大切にしてはいかがでしょうか。たとえ実績にならなくても、少なくとも自分に向いていないことは見えてきます。

ミッションの日本語は「使命」。文字通り、命を使うことに他なりませんから、slowly but surely(ゆっくり。しかし確実に)の精神で前に進みましょう。

※本連載は書籍『プロフェッショナルサラリーマン 実践Q&A』に掲載されています(一部除く)

(撮影=尾関裕士)