初めての東京で、華やかな世界に衝撃を受ける
――21歳の時にACQUAに入社ということですが、ACQUAといえば既に著名店だったと思います。ある意味、地方の一介の専門学校生が、どうして有名店に入れたのか。その辺のお話を聞かせてください。
当時は美容学校で1年間、現場でインターン1年を経て、その後国家試験という制度になっていました。すると、インターンの期間に忙しいお店に務めた人は実務に忙殺されてしまい、国家試験を受けに行く時間がまったく取れない。それがその後美容師の無免許問題などとして世間を騒がせてしまったことの背景です。いつでも受かるから受けていないという状態の美容師がたくさんいて、それが普通だった頃です。
自分は、2年目のインターン期間を田舎の美容学校の一階にあったサロンですごしたんです。業界のことがまったくわからない中、どこかのお店で働くよりも勝手の分かるところでインターンをして学んでから忙しいお店にいきたいと考えていました。もちろん、自分はしっかり国家試験もクリアしています。
そこの店長さんが、「どうせやるなら東京でやったほうがいいよ」と言ってくれたんです。その紹介先がACQUAだった。実は、そのときすでに芦屋のサロンで働くことが決まっていて、自分はそこで働くんだなって思っていました。美容師ってそういうもんなんだと。街の美容院でおばちゃんの白髪を染めたり、パーマをあてるのが仕事だと。
しかし、そこから東京のACQUAを見学にいったら、もう世界が違う。芸能人はいるし、美容師はおしゃれだし。
――ああ、キムタクの世界が思い起こされてきた。
まさに! 髪を切るだけではなく、ヘアメイクの仕事もするし、地方の美容室へいって講習を開いたりもするし、もう別世界でした。さきほどパティシエを思い浮かべた理由として、海外に関心があったとお話しましたが、こんな別世界が東京のヘアサロンにあるなら海外へいく必要なんてないと感じました。それまではニューヨークとかロンドンとかおしゃれな外国にいかないと得られないと思っていた世界がそこにあったんです。
――それまで東京にきたことは?
一回もなかった。名古屋から先にいったことがなかったんです。
――それは驚きますね。もう、すぐにここで働きたい、と。
そうですね。即決です。社会人経験がすでにあったので、幸い面接には慣れていました。受けてみると実際受かる。ただそこからが甘かった。