2023年の大河ドラマの主人公として注目される徳川家康。直木賞作家にして家康の長編小説を連載中の安部龍太郎さんは「家康は政治的なリアリストであり、日本最大の乱世である戦国時代において、飢えのない社会を目指し本気で平和を求めた武将だった」という――。

※本稿は、安部龍太郎『家康はなぜ乱世の覇者となれたのか』(NHK出版)の一部を再編集したものです。

多くの人が平和を望むのに、なぜ戦争は終わらないのか

21世紀になって、はや22年がたちました。1991年の冷戦の終了によって、イデオロギーの時代は終わり、平和が訪れると期待したのもむなしく、その後も民族、宗教などが原因となり国際紛争が止むことはありません。2022年には、ロシアによるウクライナ侵攻が世界の話題をさらいました。

「永遠の平和」がたとえ幻想だとしても、平和を望まない人はいません。それはいつの時代も同じでしょう。しかし、それは戦乱が止むことはないという「現実」と背中合わせになっています。戦乱の世だからこそ、平和を求める。それが人間の本質なのかもしれません。

一方で、ロシアのプーチン大統領のように、自ら好んで戦乱を招き、そのなかで個人的、国家的な欲望を満たそうという人間もいます。21世紀の今日にいたっても、そういう人間がいることは驚きですが、戦乱が日常であった乱世においては、おそらく枚挙にいとまがなかったでしょう。

2023年の大河ドラマで高まる「家康」への関心と期待

日本の戦国時代を振りかえっても、それは実感できます。戦国武将とは、戦いのなかを生き、戦いのなかで成長し、戦いのなかで自己実現を図った人々です。互いの野望が衝突しあうからこそ、戦乱が止むことはないのです。

狩野探幽筆「徳川家康像」(
狩野探幽筆「徳川家康像」(写真=大阪城天守閣所蔵/PD-Japan/Wikimedia Commons

しかし、日本最大の乱世である戦国時代において、本気で平和を求めた武将がいます。それが徳川家康(松平元康)だと、私は考えています。しかし、家康は平和を夢想して、誰かが乱世を鎮めてくれることを待つだけの人間ではありませんでした。戦いを止めるためには何が必要か。それを誰よりも真剣に考え、家康は戦いに勝利して乱世の覇者となる道を選びました。そして、達成されたのが「徳川の平和(パックス・トクガワーナ)」です。

そんなおりから、2023年放送のNHKの大河ドラマは約40年ぶりに家康を主人公とする「どうする家康」であることが発表され、家康の地元と言うべき静岡県、愛知県を皮切りに、家康についての関心が、大河ドラマへの期待とともに高まっています。