夫婦と恋愛にまつわる語彙
世間の交わりといえば、交友や職場関係もさることながら、やはり男女の結びつきと別れを欠かすわけにはいかない。夫婦と恋愛にまつわる上級語彙をみておこう。
●鴛鴦の契り 夫婦がとても仲睦まじいことのたとえ。「いま鴛鴦の契りを結ばれるお二人の前途に、幸多からんことを祈念いたします」
※鴛鴦はオシドリのこと。「鴛鴦夫婦」といえば仲のよい夫婦を意味するが、実際のオシドリは毎年冬ごとに異なるパートナーとつがいになるとされている。ただこの説には近年、異論も出ている。
夫婦仲を楽器の響きに喩える場合もある。
●琴瑟相和す 琴と瑟とで合奏して、その音色がよく調和している。転じて、夫婦間の相和して睦まじいたとえ。「両親はまさに琴瑟相和すという感じで、互いの心を重ね合わせていました」
結婚式では「鴛鴦の契り」などと言祝がれた二人だが、やがてひびが入り、ついに〈破鏡〉してしまうこともある。
「離婚」以外に「夫婦の別れ」を表す言葉
●はきょう【破鏡】夫婦が離別すること。離婚すること。
《自ら進んで名家の正妻となったけれども、散々苦労の末、遂に破鏡の憂目に遭った》(坂口安吾『安吾人生案内 その六 暗い哉 東洋よ』)
「恋は盲目」とか、「恋の闇路」などというが、恋する二人に理屈だの分別だのは入る余地はない。これを〈理無い〉という言葉を用いて表現する。
●わりない【理無い】理屈では割り切れないほどに親密である。多く男女関係についていう。「お互いに一目惚れしたふたりは理無い仲となった」
※「理」の訓読み「わり」は、「理」の「わり」だ。つまり「ことわり」の「こと」が省かれた上略なのだ。
女優の岸惠子に『わりなき恋』という、中高年男女の恋愛と性を描いた小説がある(幻冬舎文庫)。
昔書いた私の文章から二点、引文を採っておこう。
いにしえより懇ろの間柄を『理ない仲』というが、いまはどんな仲にも『理』が忍び込んでしまう」
「〈異土〉で〈方便〉に〈困じ〉ていたストラヴィンスキー一家に対し、ココ(・シャネル)は経済的援助を申し出る。やがて二人は理ない仲に落ちてしまう」
◎いど【異土】異国の土地。外国のこと。
◎たずき/たつき【方便】生活の手段。生計。「アルバイトを方便とする」
◎こうずる【困ずる】困る。困惑する。困って苦しむ。「金の工面に困ずる」
《公郷さまはさきごろからたいへんお身持ちが悪く、世間の評判にもなりだしたそうで、御両親はじめ御親族のあいだでも困じはてていらっしゃる……》(山本周五郎『落ち梅記』)