■コンサルタントの「カタカナ英語」から見る日本語の利点
もっと〈卑近〉な例を挙げれば、経営コンサルタントやマーケターがプレゼンテーションなどで「わけのわからないカタカナ英語」を多用することはよく知られている。
●ひきん【卑近】身近なこと。ありふれていること。高遠ではなく手近なこと。「卑近な話題ばかりだった」
これは大概の場合、聞き慣れない専門語をひけらかすことで、顧客を威圧したり、煙に巻いたりする「効果」を狙ったものだ。例えば、
「VUCA時代にあって、マーケットがインプライする変化のサインをしっかりとらえ、いちはやくアジャストするために、各セクションからクロスファンクショナル・チームを選出し、同時にセクション間のコラボレーションをファシリテートすることで、アジャイルなソリューションのケイパビリティを高めていくことが〈肝要〉です」
などという。門外漢にはほとんど無意味な外来語(カタカナ洋語)の羅列に過ぎないが、日本語に直してみれば、一応意味が「ぼやっと」はわかるようになる。
「変転著しく不確実性に満ちた時代にあって、市場が暗に示す変化の兆候をしっかりとらえ、いちはやく調整、適応するため、各部門から機能横断型のチームを選出し、同時に部門間の協働を促進することで、課題に即応対処できる能力を高めていくことが肝要です」
◎かんよう【肝要】(人の肝と扇の要の意から)極めて重要であること。最も必要なこと。「二国間の連携を維持することこそが肝要だ」
日本語は基本語彙と高級語彙の間に差があまりない
専門的な語彙も多少含まれているものの、とくに経営戦略の知識がない人でも、漢字によって構成される漢語を辿っていけば、だいたいの文意は取れるはずだ。英語圏ではこうはいかない。
日本語の日常的な基本語彙と専門的な高級語彙とのあいだには、英語ほどの隔たりはみられない。しかし、別の格差が生じようとしているように思う。
それは高級語彙(学術用語、専門語)と基本語彙(日常語)との中間辺りに位置する言葉の衰えによる。日常語というほど頻繁には使われないが、意義としては日常語の範囲に属することの多い、やや難しい言葉や表現(言回し)。本や硬めの文書、畏まったスピーチや講演などには登場するが、日常会話ではあまり話されない語彙。本書ではこうした言葉の群れを「上級語彙」と呼ぶ。