「終身雇用は当たり前」という風潮も再建の足枷に
こうして東芝の経営体力は急速に低下した。債務超過から脱するために東芝は家電や成長期待の高かった医療機器など資産売却を進めた。それでも収益力の回復は十分ではなかった。2017年11月には6000億円の第三者割当増資が実施され、複数のアクティビストファンドがそれに応じた。上場維持と引き換えに、東芝は安定株主と物言う株主など、多様な利害の調整に手間取ることになった。経営トップも短期間で交代した。再建は追加的に難航した。
また、東芝内部には、雇用維持を優先する考えも強かったはずだ。資産売却によって事業規模は縮小したが、同社は11万6000人を超える従業員を抱えている(2022年3月末時点)。わが国では、終身雇用は当たり前という風潮が社会に浸透している。大規模なリストラへの社会的抵抗感は強い。
そうした雰囲気も、アクティビストファンドをはじめとする利害関係者との協議を難航させた要因になっただろう。結果的に、東芝再建への道のりは一段と長引いた。資産売却などによって社会インフラ企業としての存続が目指されたが、収益力の回復は道半ばだ。一時検討された分社化も見送られた。
変われない東芝はまるで「日本の縮図」である
このように考えると、ある意味、東芝は世界経済の環境変化に背を向けた期間が長引いた。それによって、東芝は能動的に自己変革に取り組むことが一段と難しくなったと考えられる。
特に、東芝内部には“就職すれば一生安泰”と考える人がかなり多かったはずだ。東芝は終身雇用と年功序列の賃金システムに加えて、病院や企業内学校も運営した。その裏返しとして、債務超過への転落などによって経営体力が低下しても人々の意識は簡単には変わらず、再建は難航したと考えられる。既存の発想に執着し、成長のための意思決定が先送りされた状況は1990年代以降のわが国の縮図にも見える。
主要企業の出資によって株式の非公開化を目指す兆しが出始めたことは、東芝にとって重要な一歩ではある。ただ、それによって、再建加速と収益力の回復、強化が目指されると考えるのは早計だ。むしろ、アクティビストファンドの出資が続く中で非公開化が目指されることによって、これまで以上に利害調整が難航する恐れがある。依然として、東芝の再建は前途多難、困難かつ長い道のりになるだろう。先行きは楽観できない。