アジア進出する際、当面の主戦場は中国大陸になると思います。昔から中国に進出する計画はあって、毎週のように上海に通って「一緒に事業しましょう」と乾杯、乾杯を繰り返してたら20年もかかった(笑)。ただし言葉や慣習の壁がある外国と向き合うのは、それぐらいの時間がかかって当然だった気もします。
中国では数年前から現地タレントを起用して上海吉本新喜劇を展開したり、イベントの企画運営を行ってきました。10年にはSMG(上海メディアグループ)と会社を立ち上げて、今後は日本のドラマコンテンツを発信していけないか考えています。また放送事業では台湾のテレビ局・東風衛視と契約を結び、「吉本東風衛視(よしもととんぷうえいし)」を5月1日から開局しました。東風衛視はアジアを中心に北米、ヨーロッパと全世界に約1500万世帯をカバーする衛星チャンネルで、吉本はプログラム編成やコンテンツ提供などを行っていく。このチャンネルを通して、吉本の関わったバラエティー番組を多くの国にオンエアできればなと。
今、アニメやマンガなど、日本のカルチャーが世界的に高い評価を受けています。私は日本のバラエティー番組も質が高く、そこに含まれるんじゃないかと思うんですね。欧米に向けてつくり直すこともするけれど、ローカライズしなくても通用する部分もたくさんある。ドタバタのコメディーなんてどの国でもよく似ていますし、アジアでいうと笑いのツボは8割ぐらい一緒という感覚があります。
そうした土壌があるアジアで、もっともやりやすい国は台湾です。日本語をしゃべれる方も、親日家も多い。対して韓国はまだ日本文化の受容に対する壁があり、難しい部分が少なからずある。ただし明るい話題もあります。2011年、マネジメント業務を始めるために設立した「よしもとエンタテインメント・ソウル」とKBS(韓国放送公社)で、日韓の芸人が出演する「コメディ日韓戦」を共同制作したんです。これをゴールデンタイムで放送したところ、すごい話題になり、高い視聴率を記録した。番組をまた新たにつくる予定になっていて、世代が変わるにつれ、状況も変わっていくのかもしれません。
逆に韓国のポップカルチャーが日本へ進出していますが、全く脅威に感じてはいませんね。日本の受け手側にしたら、いろんなアーティストや作品が見られるし、選択肢が増えて非常にいいこと。全体が盛り上がって何のマイナスもないような気がします。“韓流”に振り回されるとしたら、それは日本のエンターテインメント業界が情けないんじゃないですか。