エンタメの王者、吉本が笑いの新大陸を求めて動き始めた。アニメやマンガ同様に、日本のバラエティー番組は世界で通用するのか。グローバル時代の浪速の商人道に迫る。

創業100周年で迫られる経営の変革

吉本興業株式会社 代表取締役社長
大崎 洋

1953年、大阪府生まれ。関西大学社会学部卒業後、吉本興業に入社。吉本総合芸能学院(NSC)開校を担当しており、一期生だったダウンタウンと出会い、その活躍に大きく貢献した。また、ブロードバンドビジネスを始め、新規事業に数多く参画すると共に、社内の構造改革にも取り組む。同社を日本屈指のエンターテインメント企業に押しあげた。2009年より現職。

吉本興業は2012年で創業100年目を迎えます。自分の代で潰したらシャレにならんなとドキドキしているんですが……。節目として、変えずにいくこと、変えるべきことを考えていて、吉本が家族のような存在であることは今のままでいたいと思っています。吉本の門を叩いたら、辞めようが最後まで吉本の人間。だから12年の初頭、島田紳助の復帰を歓迎するコメントを発表したわけです。甘いという批判は承知で、これからも身内を大事にする会社であり続けたい。

一方、経営は変えていかなければならない部分がたくさんあって、その一つが海外市場の開拓です。国内だけで収益を確保できる時代は終わりました。われわれのようなコンテンツを売る会社も、これからは海外に目を向けざるをえません。

これまで日本のテレビ局はバラエティー番組のフォーマットを海外に販売してきましたが、数十万円の安い価格で投げ売りしてそれで終わり。ビジネスと呼べるようなものではなかった。欧米の大手放送局は自社の番組を他国に売って、世界を相手に版権で2次、3次収入を得られるビジネスを確立しています。だから1時間のドラマ一本の制作費は日本だとせいぜい2000万~3000万円なのに、アメリカは2億~3億円。ケタが違うんです。

われわれはそうしたビジネスモデルを知らなかったので、成功を収めてきた彼らに教えを請うて、仕組みを一からつくらないといけなかった。そこで2008年から提携したのが、米国最大手のタレントエージェンシー・CAA(クリエイティヴ・アーティスツ・エージェンシー)です。企画の段階からCAAと共同制作体制を組んで、世界の視聴者にアピールできるグローバルなテレビ番組をつくり、世界市場に売り込むスキームを立てようとしたわけです。

たとえば3000万円ぐらいで番組を制作して、まず日本で放送する。それをオンエアすることで、日本の放送局から5割から7割ぐらいのお金をいただく。さらに番組の収録時、500万から1000万円を追加して、外国人のMC、キャストで海外に向けたパイロット版も制作しておきます。そしてCAAに日本以外の権利を預けて、独自のコネクションで世界中の放送局にセールスをかけてもらうのです。こうすると吉本のリスクはほぼゼロに近い。11年はこのやり方で3本の番組を制作して、現在も数本の企画が進行中です。欧米数カ国でセールスができそうなので、近いうちに成果が出てくるんじゃないでしょうか。

そうやって1時間1億円ぐらいのバラエティー番組を制作しながら、アジアに向けて100万円でつくれるような番組も制作していきます。家電や自動車同様、アジア市場は高付加価値より安くてシンプルな番組が求められますから。方向性の異なる2つのラインを手がけてこそ、日本のバラエティー番組は世界戦略商品と呼べる。