「27回の首脳会談」プーチン氏と個人的な親交を重ねたはずだが…

巨額の予算を投じ、欧米からの懸念を招いてまでプーチン氏と個人的親交を重ねたのだから、今こそ世界平和の回復のためにその人脈を駆使する時ではないのか――日本国民がそう感じるのは至極当然である。ところが安倍氏当人にその気はさらさらない。

安倍氏はロシアがウクライナ侵攻して間もない2月27日のテレビ番組で、こう解説した。

「(プーチン氏は)NATOを拡大しないはずだったのにどんどん拡大した米国に不信感を持っている。領土的野心ということではなく、ロシアの防衛という観点から行動を起こしている。それを正当化はしないが、彼がどう考えているかを把握する必要はある」「彼は『力の信奉者』だ。プーチン大統領を相手にする場合、最初から手の内を示すよりも『選択肢はすべてテーブルの上にある』という姿勢で交渉するのが普通ではないか」

そのうえで、持論である日本の国防力強化に話を移し、非核三原則を見直して日本国内に米国の核兵器を配備する「核共有」の検討を提案したのだった。

岸田文雄首相も安倍氏を対ロシア外交に活用する考えはなさそうだ。

3月8日の参院外交防衛委員会で、立憲民主党の羽田次郎氏が「積極外交を行う日本の姿が見えてこない」として安倍氏らを特使としてロシアへ派遣するよう提案したが、林芳正外相は「現時点で特使を派遣する考えはない。G7をはじめ国際社会と連携し有効と考えられる取り組みを適切に検討していきたい」と素っ気なかった。

派遣先はロシアではなくマレーシア

岸田内閣が3月10日から安倍氏を特使として派遣したのはロシアではなくマレーシアだった。

安倍氏は当地で講演し、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻について「われわれが目にしている危機は力による一方的な現状変更の試みであり、ルールに基づく国際秩序に対する深刻な脅威だ」とロシアを批判。「影響は欧州にとどまるものではなくアジアでも深刻な脅威だ。一致して反対の声を上げていくべきだ」と述べた。

ロシアや中国の軍事的脅威に対抗し、欧米との安全保障上の結束を強めるべきだとの立場を鮮明にした。プーチン氏に駆け寄って欧米との仲介を担う役回りを自ら封印したのである。

安倍氏は何のためにプーチン氏と個人的親交を重ねたのか。今のような重大局面でまったく役に立たない「首脳外交」とは何だったのか。

安倍外交の本質①――歴史に名を刻むという国内的動機

そもそも安倍―プーチン外交は外務省が主導したものではなかった。安倍氏は霞が関の両雄である財務省と外務省を遠ざけ、経済産業省と警察庁を引き立て、官邸主導の政権運営を進めたのである。