抹茶事業進出の布石となるカフェが開店

「アメリカ人の多くは抹茶が日本のものであることを知っていますから、もっと日本人が日本人らしさを発揮して抹茶をやるべきだと思っていました。そこで、新しい部署に異動したのを機に、サントリーに出資をしてもらって、企業内ベンチャーの形でSTONEMILL MATCHAをオープンしたわけです」

STONEMILL MATCHAはカフェ単体で収益を上げるのではなく、米国で抹茶ビジネスを展開するためのブランドづくりをミッションとしたカフェだった。まずはSTONEMILL MATCHAというブランドを確立し、そのブランドを引っ提げて卸やeコマースの世界に打って出ていく。ゆくゆくサントリーがペットボトル入りのお茶を米国で展開したいとなったら、このブランド名を使えばいい。要するにSTONEMILL MATCHAは米国抹茶事業の橋頭堡であり、いわばシードマネーであった。

オープン初日から行列が絶えない人気店となったSTONEMILL MATCHA
写真=塚田氏提供
オープン初日から行列が絶えない人気店となったSTONEMILL MATCHA

2018年5月のオープン初日から、STONEMILL MATCHAは盛況を見せた。カフェ事業単体で利益を出すのは難しかったが、ブランドの確立という使命は十分に果たせる手応えがあった。

ところが……。

急転直下の異動命令、失意の帰国

「塚田は日本に戻って違うことをやってくれ」

日本側の上司が異動になると急転直下、人事異動が発令された。しかし塚田さんにしてみれば、それまでの経緯をまるで無視した、あまりにも理不尽な処遇であった。

2018年秋、塚田さんはSTONEMILL MATCHAを後輩に託すと、失意のうちに帰国の途に就いた。理不尽と感じる業務命令に、心が腐りかけていた。いや、理不尽というのは塚田さん目線の話であって、会社にはもっと別の意図があったのかもしれない。

「もしかしたらこの時期、コイツは会社の言うことを聞くやつかどうかを試されていたのかもしれません。すごく悩みましたね。ですが、抹茶に大きな可能性を感じていて、しかも先行するカフェの立ち上げにも成功していたわけです。仮に、ここで僕がやめたとしても、他の誰かがアメリカで抹茶ビジネスを成功させるのは間違いない。自分以外の人間がそれをやっている姿を見るのは、やっぱり嫌だったんです。だったら、会社を離れて違うやり方を探せばいいんじゃないかと……」