議論に強い人とは、どういう人か。経済評論家の上念司さんは「重要なのはエビデンスとロジック。自分の経験だけを根拠とするような汎用性のないエビデンスは、相手に論破される穴となる」という――。

※本稿は、上念司『論破力より伝達力』(扶桑社)の一部を再編集したものです。

プレゼンテーション
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論破王・ひろゆき氏に「完全勝利」

相手を説得するための要素として必要なのが、「定義の設定」「エビデンスの提示」「ロジックの組み立て」「結論」です。

まず、「定義」の大切さについてお伝えするため、次のエピソードをご紹介させてください。

2022年2月に、私はNews Picksの番組で2チャンネルの創設者・ひろゆきさんと「デフレ」をテーマにした討論を実施しました。ひろゆきさんとは12年前にも1度討論したことがあるのですが、その際、私は圧勝したとネットでは言われています。もちろん、ジャッジがいたわけではないので勝敗は公式にはついていないです。

そして、2回目の討論でも、私はひろゆきさんに「完全勝利」だと言われました。もちろん、この討論もジャッジがいたわけではないし、勝敗は公式にはついていません。みなさんがどう感じるか、いまでもオンライン上でその討論の一部が見られるので、ご興味のある方はぜひ見てみてください。

さて、ひろゆきさんは議論に強いことから「論破王」との異名をとる方ですが、私のような弁論部出身から言わせてもらえば、その技量は、「ちょっとしゃべれる新人部員ぐらい」のランクです。実際、私の学生時代を振り返ってみても、ひろゆきさん以上に口が達者な後輩はたくさんいました。

定義の設定が甘いと論争にならない

さて、先の対談でひろゆきさんは何がダメだったのかを振り返ると、まずひとつは、冒頭で挙げた「定義」に問題がありました。ひろゆきさんは、定義の設定が非常に甘いのです。

たとえば、彼は「オワコン」という言葉を簡単に多用するのですが、「オワコンとは具体的には何か」「どういう条件を満たすとオワコンなのか」を質問しても、なかなか答えられない。「ぐぬぬ……」と言葉に詰まってしまう。

定義の設定は、誰かと議論するときには非常に大切なテクニックです。そもそもの定義が間違っていたり、甘かったりすると、何の話をしているのかという主眼がぼやけてしまい、論争にもなりません。