投資の世界で重要な“ポジションを取る”姿勢

投資の世界において、何らかの見解に基づき、資産(株式・不動産・オプション)を買う/空売りすることは“ポジションを取る”と表現します。

例えば、日米の金利差に着目して円を売る為替取引を行うこと、またとある企業の事業の見通しが明るいという見解に基づいて株式を購入することなどがこれに該当します。

より抽象化すると、自分自身の考えを拠り所になんらかのリスクを取ることがすなわち“ポジションを取る”ことであると言えます。

投資活動において市場を上回るリターンを創出する為には、自分自身の考えを拠り所にポジションを取ることが必要不可欠です。これについては金融市場の大暴落を描いた映画である『The Big Short(邦題:マネー・ショート 華麗なる大逆転)』が良いサンプルになります。

クリスチャン・ベール演じる主人公マイケル・バーリはヘッジファンドの創業者。アメリカの不動産市場が空前の好況に沸き、誰もがその継続を疑わなかった2005年、彼はそのタイミングで“不動産市場のバブル崩壊”を予測するポジションを取りました。

ストリップクラブで働くダンサーやペットの犬でさえもローン借入が可能(碌に審査が行われない状態)で、買った物件はほぼ確実に値上がりし、それらを担保に低所得者層が2軒や3軒のマイホームを持てる状況に対し感じた違和感をきっかけに、その違和感を裏付ける検証を行いました。

野原秀介『投資思考』(実業之日本社)
野原秀介『投資思考』(実業之日本社)

そして周囲の声を押し切って、ゴールドマン・サックスやドイツ銀行などの金融機関を相手に不動産ローンを担保とした金融商品(CDO)の空売りを仕掛けたのです。

詳しくは是非映画をご覧いただければと思いますが、ファンドが破綻寸前に追い込まれるほどの含み損を数年間耐え抜いたのち、2008年に訪れたリーマンショックと呼ばれる大暴落で記録的な投資リターンを生み出しました。

投資の世界において群を抜いたリターンを記録する場合、このように市場のコンセンサスに逆らって取ったポジションが結実したことが頻繁に見受けられます。

情報を集めて綺麗に並べても事業は前に進まない

そしてこの考え方は仕事や人生・キャリアにおいても通じる点があります。つまり常に自分の意見を持って仕事をしない限り価値を生み出すことはできないという点です。

そもそもビジネスにおけるすべての活動は、常に最終的になんらかの行動を起こす/起こさないという意思決定に集約されると言えます。それだけを見れば資料作成、会議の開催といった瑣末なタスクであっても、最終的には「なんの行動を起こすか?」言い換えれば「どのポジションを取るか?」という問いに繋がっています。

であるからこそ、あらゆるタスクの実行において「今はなんの意思決定を行おうとしているのか? そして自分だったらどう意思決定するか?」という姿勢を持つことは飛躍的にその質を向上させます。反対に上司や同僚の提案した意見に対し、リスクを指摘するだけ・代案を提示せず出来ない理由を列挙するだけといった活動は、一切価値を生み出さないと言えます。

しかしながら、実際にはポジションを取らずに仕事をする人、否、仕事のような真似事をするだけの人を多々見かけます。

会議に持ち込まれる資料などでよく見かけるのが「今回はA案/B案/C案を比較検討しました。各案のPro-Con(メリットとデメリット、賛成意見や反対意見)をこちらにまとめています(以上)」といった、情報を羅列しておしまいの仕事の仕方です。

いくら情報を集めて綺麗に並べても、ポジションを取らなければ次のアクションは発生せず、次のアクションがなされなければ事業は前に進みません。

どうすれば事業が進展するのか? から逆算して考えれば、資料作成者はA案/B案/C案のうちどれを推すのかくらいは最低限明示すべきです。

そしてここで忘れてはならないのが、初めにポジションを取る場合は間違っていても全く問題ないという点です。一度ポジションを取ることで議論が活性化しますし、仕事を進めていく中で検討すべき観点が追加で浮かび上がってきます。

実行に向けて物事を前に進めることこそが重要であり、その第一歩はあなたがポジションを取ることなのです。