会社にいる時間がうれしかった
ウェザーニューズへの転職を機に、人生初の一人暮らしが始まった。といっても土地勘がないので東京などで羽を伸ばす気にもならず、ひたすら会社と自宅を往復するだけの日々だったが、まるで苦にならなかった。
「むしろ会社にいる時間の方がうれしかったんですよ。だって、ひまわりもアメダスも見放題なんですから。『これでお金もらっていいんだろうか』と」
ちなみに前年、170万円で購入したひまわり受像機は京都の実家に置いたままだったが、転職した年の6月にソフト不調で壊れてしまった。実稼働6カ月というはかない命だった。
ウェザーニューズに入って山口氏がまず配属されたのは、契約している放送局をサポートする部署だった。当時とある放送局に提供していた自社制作の気象番組の現場に立ち会ったり、チャンネル内で1時間ごとに流れるニュースの天気予報コーナー用に元原稿を作成するのが主な仕事だ。
続いて大阪の放送局へ出向して気象コーナーの構成を3年間担当した後、本社に戻る。以降は、全国各地の放送局に地元の天気予報原稿を送る「放送気象」に4年、道路管理者向けに天気予報情報を提供する「道路気象」に9年、電力会社向けの「電力気象」に4年携わった。
「豪雨時の巡回態勢や降雪時の除雪態勢を敷くにあたり、どの場所に、いつ頃、何人の作業員を差し向けるかを決めるため、道路管理者は非常に限定された地域の確度の高い降雨予報、降雪予報を必要としています。また、暑くなると皆さん冷房を使うので、増えた電力需要を賄えるだけの電力を作れなければ、停電してしまいます。電力会社は、例えば今日東京で何度まで気温が上がる、何ミリ雨が降るという気象会社の予報を基に、需要想定をするわけです」
「ウェザーニュースLiVE」の解説員に
こうした道路気象や電力気象は、一般向けの天気予報よりはるかにピンポイントで、より短く刻まれた時間単位で、場合によっては相当先の日時まで、できる限り正確な予報が求められる。
タイムマシンでも持っていない限り未来の天候を100%的中させるのは不可能なのだが、クライアントにしてみれば自分たちの業務に直結する情報であり、相応の対価も支払っているわけなので、「予報だから、たまに外れることもあります」では済まされない。
「大きく外した時は、厳しいお叱りも受けます。的中率が低ければお客さんは即、競合他社に流れてしまう世界です。時には技術部門を代表してお詫びに伺ったり、報告書を書いたりもしました」
そして2018年、天気図の解析や日々の予測を行う部署である予報センターへ移り、自社で配信するオリジナル気象番組「ウェザーニュースLiVE」の解説員となって現在に至る。