台湾の大富豪「48億円を投じて300万人の戦士を育てる」
彼の試みは台湾のみならず、世界で報じられることとなった。英BBCは9月、ツァオ氏が開いた記者会見の内容を報じている。記事によるとツァオ氏は台湾で民間の戦闘部隊を育成するため、10億台湾ドル(約48億円)を拠出する意向を示した。
氏は3年間をかけ、台湾全土で300万の「戦士」を育成する計画だという。
この数は、国民の7人に1人にあたる。野心的な計画であり、かえって緊張を高めるとの批判もありそうだ。だが、軍事作戦をちらつかせる中国の脅威は日増しに深刻なものとなっている。なりふり構っていられないレベルにまで達したとツァオ氏は考えたようだ。
英フィナンシャル・タイムズ紙は、10億台湾ドルを投じる民間兵育成とは別に、ツァオ氏が軍用ドローンの生産を推進する計画だと報じている。台湾のドローンメーカー複数社と連携し、攻撃用ドローン100万台の製造を急ピッチで進める構想だ。
同紙によるとツァオ氏は会見で「中国共産党が部隊を上陸させ、艦隊が海峡を越えてやってきたとしても、われわれは迎撃することができる」と述べ、台湾防衛に意欲をみせた。
中国との取引で財を成した親中派だったはずが…
ツァオ氏は北京で生まれ、1歳の時に台湾に移住した。台湾暮らしの長い氏だが、長らく親中の立場を取ってきた。
BBCは、台湾に半導体企業を興した氏が、中国との取引で財を成したと報じている。氏にとって中国はかけがえのないビジネス・パートナーであり、出身国として親しみの対象であったはずだ。政策をめぐる論争でも存在感を示すツァオ氏は、同記事によると2007年、中国本土との統一を問う国民投票の実施を支持している。
だが、中国による8月の台湾周辺の軍事演習により、氏の立場は一変した。長年暮らし、自ら育て上げた半導体企業の本拠ともなっている台湾に迫る武力による脅威を、肌で感じたのかもしれない。
ツァオ氏は現在、中国共産党は「中央政府の皮を被ったマフィアであり、犯罪シンジケートである」とまで述べるようになっている。台湾への圧力を強める中国政府に対し、憎しみを募らせるばかりだ。
振り返れば台湾がまだ日本の占領下にあった当時、中国共産党を批判する教育が台湾で行われていた。テレグラフ紙に対してツァオ氏は、日本とつながりの深い中国国民党が実施していたこのような教育を、当時は「洗脳」のようだと考えていたという。中国共産党は無法者であると繰り返し言い聞かせる内容を、氏は好まなかったようだ。