バスから降りずに乗り続けることが大切

③ オリジナルは模倣から生まれる

フィンランド出身の写真家アルノ・ラファエル・ミンキネンは、ヘルシンキのバスターミナルのたとえ話を使って、忍耐の大切さを語る。

ヘルシンキのバスターミナルには20数個のプラットフォームがあり、それぞれのプラットフォームから複数の異なる路線が出発している。そしてひとつのプラットフォームから出発するバスは、途中までまったく同じ道を走り、まったく同じバス停を経由する。

ミンキネンは写真を学ぶ学生たちに、それぞれの停留所を自分のキャリアの1年分と考えなさい、とアドバイスする。たとえば自分のアートの方向性をプラチナ・プリントのヌード写真に決めたとしよう。

コツコツと写真を撮り、3年後(つまり3つめのバス停)に、自分のポートフォリオをギャラリーへ持ち込んでみる。ところがギャラリーのオーナーは、「まるでアーヴィング・ペンの作品のコピーだね、独創性が足りないよ」と言って作品を突き返す。

「3年間を無駄にした」と落胆したあなたは、バスを降りてタクシーを拾い、もとのバスターミナルに戻る。今度は別のバスに乗り、別のジャンルの写真を撮ることにする。ところが、いくつか先の停留所で、同じことが起こる。新しい作品もまた、誰かのコピーみたいだと言われるのだ。

またバスターミナルに戻ってみるが、いつまでたっても同じパターンの繰り返しで、自分のオリジナル作品がつくれない。いったいどうすればいいのか?

「簡単なことだ」とミンキネンは言う。「バスから降りるな。バスに乗りつづけるんだよ」都市部をちょっと離れれば、ヘルシンキのバス路線は分岐して、それぞれのユニークな目的地へ向かう。そこからが個性的な仕事の始まりだ。

でもそこにたどり着けるのは、人真似だと言われてもくじけずにつくりつづけ、粘り強く技術を磨き、経験を積むことのできる人だけだ。初期の試行錯誤の段階で諦めてしまうようでは、けっしてオリジナルの作品はつくれない。

現在地をゆっくりと楽しむ

クリエイティブな仕事に限った話ではない。人生のさまざまな局面で、僕たちは選択を迫られる。結婚するかどうか。子どもを産むかどうか。地元に残るかどうか。サラリーマンになるかどうか。

平凡な選択よりも、刺激的で独創的なことに挑戦すべきだというプレッシャーを感じることもあるだろう。しかし、平凡な道が平凡に終わるわけではない。

オリバー・バークマン著、高橋璃子訳『限りある時間の使い方』(かんき出版)
オリバー・バークマン著、高橋璃子訳『限りある時間の使い方』(かんき出版)

辛抱強くみんなと同じ道を歩んできた人だけがたどり着ける、豊かで独創的な境地というものもある。

まずは立ち止まり、その場に留まってみることだ。現実を速めようとするのをやめて、現在地をゆっくりと楽しもう。長く連れ添った夫婦のように誰かを理解するには、目の前の相手と長年結婚生活を続けなくてはならない。

ひとつの土地やコミュニティに深く根づく体験をするには、動きまわることをやめなくてはならない。

かけがえのない成果を手に入れるには、たっぷりと時間をかけることが必要なのだ。

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