再発行に「免許証、保険証が必要」という致命的な問題
もちろん、健康保険証や運転免許証がマイナンバーカード1枚になることを心配する人ばかりではなかろう。「1枚になったほうがよっぽど便利」とマイナンバーカード一本化を歓迎する人も少なくないかもしれない。ただそういう人にはその選択肢を与えれば良いだけの話だ。
さらには、そういった人に対してもマイナンバーカードを紛失した際の再発行についての説明は政府として十分にしておくべきだ。現在のところ、再発行の際に必要な本人確認書類としては、「1点でよいもの」として運転免許証、パスポート等、官公署が発行した顔写真付きの証明書、「2点必要となるもの」として健康保険被保険者証、年金手帳、介護保険被保険者証、社員証、学生証等が、自治体のホームページ等で例示されている。
河野大臣が表明した工程通りに健康保険証、運転免許証がマイナンバーカードに一本化された場合、これらの本人確認書類の選択肢が著しく減じてしまうことになるが、いったいどうするつもりなのか。先日、この素朴な疑問をツイートしたところ、じつに多くの方々が私と同様の疑問を持っていることが分かった。はたして河野大臣はこの疑問と対処法について明確かつ的確な説明をしてくれるであろうか。
支持率を回復すべく賭けに出たつもりなのだろうが…
このように少し思考実験をしただけでも、健康保険証廃止とマイナンバーカード一本化には、多くの、そして決して低くないハードルが存在していることが見えてくる。そして今後も解決困難な問題が次々と顕在化してくることだろう。
しかし今回政府は、“2024年秋”という期限を決めてしまった。ほぼ間違いなく達成できないその目標を設定してしまったことは、今後自らの首を締めていくことになる。なぜなら、その目標が達成できずにまた先延ばしとなった瞬間に、国民のマイナンバーカード取得へのモチベーションは一気に降下し、それを再び高めることは極めて困難となるからだ。
「何もしない」との批判を跳ね返すべく賭けに出た岸田政権だが、今回の強引な手法は、国民の不安と疑問と批判を増幅させる効果しかなかったのではなかろうか。これらを払拭するために丁寧な説明をすると言ったところで、30%弱という低支持率に喘ぐ岸田政権に、今その議論と批判に耐える「体力」が残されているとは私には思えない。
少なくとも2024年秋での健康保険証廃止など、現実問題不可能なのだから、マイナンバーカード義務化や「マイナ保険証」に不安や疑問を少しでも感じている方は、こんな政府のタチの悪いブラフに踊らされることなく、慌てることなく、カードも作らず、粛々と「何もしない」ままでいれば良い。それこそが政府からのマイナンバーカード義務化圧力に対する、最も効果的な防御であると同時に最強の攻撃となるであろう。