保険医療機関には専用システム導入の圧力が

そもそもマイナンバーカードそのものの取得率もやっと半数であると同時に、マイナンバーカードの読み取り機を導入した医療機関や薬局は6万4965施設で、目標の20万施設の32.5%にとどまっているという実態(「日本健康会議」が10月4日に公表したデータ)もある。

そこで政府は保険証の「廃止」に先立って、まず保険医療機関と保険薬局に圧力をかけることにした。療養担当規則(これに違反した保険医療機関は保険指定の取り消しにさえされ得る規則)の「改正」によって来年4月より、患者が「マイナ保険証」で受給資格の確認を求めた際にはオンラインで資格確認できるシステムを整備することを原則義務化したのである。

このシステム導入を拒んだ医療機関は、最悪の場合、保険指定取り消しという厳しい対処もされかねなくなるという、極めて強権的な圧力だ。「取り消し」をチラつかされた医療機関は、維持費を覚悟してやむなく導入するか、廃業を選択せざるを得なくなるだろう。いまだコロナ禍が終息したとはいえぬ今、そのような現場に大混乱をもたらす政策は常識的にはあり得ない。

ただ仮にすべての保険医療機関がそのように変わったとしても、現行の健康保険証が使用できなくなるわけではない。あくまでも医療機関側に「マイナ保険証」に対応するよう求めるものであって、現行の健康保険証を受け入れてはならないとするものではないからだ。これまでの健康保険証でも一切問題なく使い続けることができるので、「早く『マイナ保険証』を作らねば」などと慌てる必要はまったくないのだ。

病院によく行く人こそ不便な状況になっている

そもそも「マイナ保険証」にしたいと思っても、スマホやパソコンを使える人でないと困難だ。それ以前に、マイナンバーカード未取得の場合は、まずそこから始めなくてはならない。これもやはりこれらの機器をある程度使えない人には難しい。高齢者や障がい者といった医療機関を利用する頻度が高い人こそ、その困難に直面し得るのだ。

ちなみに私の両親は来年90歳で治療中の持病もあるが、マイナンバーカードなど作れないし作る気さえ起きないと言っている。このような人が1人でも残っているかぎり、現行の健康保険証を廃止になどできるはずがないのである。

「健康保険証の廃止」というセンセーショナルな狼煙だけ先にブチ上げられたところで、これらの手続きに自信のない国民は不安と戸惑いしか感じないだろう。そして、そういった自分自身で手続きができない人をターゲットにした悪質な「代行業者」による詐欺事件が続出する事態になれば、もう目も当てられない。岸田首相は河野大臣の「突破力」に期待を込めたようだが、あまりにも勇み足。むしろ混乱を助長し、普及率アップには逆効果といえるだろう。

マイナンバーカードが全国民に行き渡って初めて、「マイナ保険証」の議論ができるようになるのであって、さらに「マイナ保険証」が全国民に行き渡って初めて、現行の健康保険証廃止の議論に進めるのである。すべて順序が逆なのだ。