日本は外貨建て国債を発行していない

①自国通貨を運用している

日本が財政破綻しない1つ目の理由は、何度も説明している通り、自国通貨を運用しているからです。日本では日本円が流通しており、“国の借金”はすべて日本円建てです。日本円は日本銀行と日本政府が発行することができるので、債務不履行が起きることはまずないでしょう。

【中村】日本はレバノンのように、外貨建ての国債は発行していないのでしょうか?

【森永】発行していません。2022年5月現在で、日本政府が発行している外貨建て国債はゼロですね。

【中村】過去にも一度も外貨建て国債を発行したことはなかったのでしょうか?

【森永】過去にはあります。例えば1904年から1905年にかけて行われた日露戦争では、戦費調達のためにポンド建て国債が発行されました。当時も日本円建ての国債発行や、増税による戦費調達は行われていましたが、武器や戦艦がすぐに必要だったため、外国から直接買い入れる必要がありました。そこで、イギリスで製造中だった艦隊を購入するために、イギリスに対してポンド建て国債を発行して購入したのです。

【中村】なるほど……戦争のためにお金が必要だったんですね。

【森永】そうです。当時は金本位制といって、政府が発行できる貨幣の量は保有する金(ゴールド)の量によって制限されていました。増税や外貨国債が必要だったのです。ちなみにこのポンド建て国債の返済が終わったのは、1988年の6月です。

【中村】そんなに最近なんですか? ギリギリ昭和くらいなんですね。

【森永】借入から返済まで約100年ですね。これだけ長期にわたって債務を負い続けられるのが、政府と個人の違いでもあります。

日本は国民の需要を満たすモノやサービスの生産能力がある

②十分な供給能力を有している

2つ目の理由が、日本は十分な供給能力を有していることです。中村くん、レバノンの財政破綻の理由は覚えていますか?

太陽に照らされた高層ビルが立ち並ぶ街を背景にした3人のビジネスパーソンの後ろ姿
写真=iStock.com/metamorworks
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【中村】はい、ドル建て国債を返済できなくなったからですよね。

【森永】その通りです。しかしレバノンはレバノンポンドという自国通貨も持っていましたよね。ドル建て国債で借金を負った理由は覚えていますか?

【中村】えーっと……国内でモノやサービスを生産する力がなくて、いろんなものを輸入するしかなくて……。

【森永】輸入物価を維持するために固定為替相場制にして、レバノンポンドの価値を維持するためにドルが必要で、国内で保有しているドルが不足してドル建て国債を発行し、その国債を返済できなくなって財政破綻、ですね。

【中村】あ、そうでした。あらためて聞いても、ちょっと難しいですね。

【森永】いろいろとプロセスがあり難しく思うかもしれませんが、ここでもっとも重要なのは「レバノンにはモノやサービスを生産する能力がなかった」ということです。自分の国で食糧や医療など、国民の需要を満たすモノやサービスの生産能力があれば、海外から輸入する必要がなく、外貨建て国債を発行する必要もなかったわけですから。