自宅内徘徊、トイレに行けない、眉の化粧ができない、名前が書けない……55歳でアルツハイマー型若年性認知症になった妻の症状は悪くなるばかり。入院した病院が妻の手首を24時間拘束したことに抗議した3歳上の夫は、訪問介護のサポートを受けながら自宅で献身的にケアする。しかし、精神的にも肉体的にも限界に達し、万策尽きた夫はその後――。(後編/全2回)
どんよりとした暗い空間で頭を抱えるうなだれる男性
写真=iStock.com/AdrianHillman
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【前編のあらすじ】現在60代の男性は37歳の時に3歳下の女性と出会い、事実婚状態に。しばらくは穏やかな生活が続いたが、妻が50歳になった頃から、同じ質問を何度も繰り返したり、時間を守らなかったり、着る服が決まらなかったりすることが頻発。そして妻が55歳の時にアルツハイマー型若年性認知症と診断される。卵パックを連日買ってくる、夫が歯磨き中に別人格になって実弟への罵詈ばり雑言を始める……豹変ひょうへんしてしまった妻に夫はうろたえながらも、懸命にケアする――。

重くなる症状

2019年10月。当時58歳の河津敬郎さん(仮名)は、55歳の時にアルツハイマー型若年性認知症と診断された妻の記憶が少しでも確かなうちに、そして移動ができるうちに2人で旅行をしておこうと思い、勤めていた設計事務所を退社。11、12月は、軽井沢、京都、大阪、熱海などを旅行した。

2020年になると妻は、得意だった料理中に「具合が悪い」と言い出し、河津さんに当たり散らすように。河津さんは夕食作りを交代するが、妻は夕食後、「つらい」「生きていたくない」と言ってふさぎこんでしまった。最終的には「私は利用されている」と妻の弟の悪口が始まる。

翌朝、河津さんは外出するため、リビングのホワイトボードに書いている予定を一つひとつ一緒に確認したが、妻は何度も同じことを尋ね、「私、おバカになっちゃったの?」「私なんか悪いことした?」と、自分自身にイライラするのか夫に詰問する。

そうしたことは再三あり、同年1月下旬には、「私は何の病気なの?」「治るの?」など次々に質問。何とかなだめた河津さんが、「夜は僕がカレーを作るよ」と言うと、妻も「楽しみにしてる」と答えた。だが、いざ夕食を準備し始めると、「作れるの?」「どれくらい時間がかかるの?」とやはり詰問状態に。「1時間ちょい」と返答すると、「そんなの30分でできる」と言い出し、さらに、「だったら、食べないから! お弁当買ってくる」と不機嫌モード全開となった。

2月には、主治医のすすめで精神障害2級を申請。

4月になると妻は、頭痛、立ちくらみ、腹痛を訴えることが増え、6月には目がチクチクすると言い出し、眼科に行くとドライアイと診断された。だが、後の2022年5月には、涙腺、唾液腺をはじめとする全身の外分泌腺に慢性的に炎症が起こり、外分泌腺が破壊されてドライアイやドライマウスなどの乾燥症状が出現する「シェーグレン症候群」と判明する。

7月には頻尿に悩まされ始め、外出中、1時間に4回もトイレに行くため、大学病院の泌尿器科を受診。薬が新たに増える。

同じ月、マンションフロアを間違えて、別の部屋の鍵を開けようとしたが開かず、その部屋の住民から怒られ、河津さんは謝罪した。

その数日後、設計事務所を退職してから、フリーランスで編集の仕事を始めた河津さんが外出する日だったため、いつも買い物をするショッピングセンターで妻と待ち合わせる。だが、妻は約束の時間になっても、いっこうに現れない。

50分後にやっと連絡が取れ、どこにいるか聞くと、あと10分くらいの位置にいることが分かる。しかし、それから45分経っても現れない。何度も連絡し、再び連絡が取れたとき、妻は迷子で交番に保護されていた。警察には事情を話し、認知症の登録をしてもらった。