医療保護入院

9月に入ると、頓服用の抗精神薬が常用となったが、その効果もだんだんと薄れていく。効果が薄れていることは、B型就労支援施設のスタッフからも指摘され、薬物療法の質を高めるための調薬入院を提案された。

9月半ば。妹夫婦に同行してもらい、車で群馬にある河津家の墓参りに。往路の車の中で、妻は「病院に連れてって!」と落ち着かなくなったが、妹がフォローしてくれたおかげで、無事墓参りを済ませて帰宅。これが妻との最後の遠出となった。

連日早朝から“病院に連れてってパニック”に悩まされていた河津さんは、9月下旬、急遽精神科を受診。主治医の判断で、調薬入院となり、かかりつけ医と連携している大学病院には、精神科専門病棟・認知症専門病棟がなかったため、受け入れ先探しを始める。

その翌日。河津さんは、妻を就労継続支援B型施設へ送り届け、一人家に戻ってリモートワークをしていると、大学病院から受け入れ先が見つかったとの連絡が入る。「14時に受け入れ先の病院に来てほしい」と言うため、昼食時に妻を迎えに行き、そのまま受け入れ先の病院に即日入院となる。

到着した病院は、病棟の出入り口の扉は鉄製で重く、窓には格子がはめられ、病室のドアには鍵がついていた。病室に連れて行かれた妻は、異様な雰囲気を感じ取ったのか、全力で抵抗。

しばらくして、入院手続中の部屋にやって来た看護師が、河津さんに、妻を拘束した時刻を告げる。“医療保護入院”のためだった。医療保護入院とは、医療と保護のために入院の必要があると判断され、患者本人の代わりに家族などが患者本人の入院に同意する場合、精神保健指定医の診察により実施することができる入院だ。

落下するカプセル剤
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「なぜ拘束するんですか? 説明してもらえますか?」河津さんが訊ねると、看護師は淡々と説明。それを複雑な気持ちで聞いた後、河津さんは病院を後にした。

翌日、河津さんが入院必需品を買いそろえ、妻の入院先に持っていくと、妻の叫び声が病棟の外まで聞こえていた。「あの声、妻ですか?」と河津さんが訊ねると、看護師は無機質な声と無表情で、「さあ……」とだけ答え、荷物を受け取った。

新型コロナの感染対策のため、病棟内には入れず、荷物を確認してもらう間、外で待っていると、何度も妻の叫び声が聞こえてきた。

翌週、抵抗が激しかったため、妻は24時間、手首まで拘束されていたことを河津さんは知った。主治医の説明で、妻の手首には、拘束されていたためにできた傷跡が残ったことも明らかになった。たまらず河津さんが抗議すると、24時間のうち、1時間は拘束を解いてくれることになった。

すぐに河津さんは、市の若年性認知症コーディネーターに相談し、転院先探しを依頼。10月、空きが出たため、別の認知症専門病院に転院した。