意見の対立は認識のズレが原因であることも

この過程で「Nさんの主張は○○と解釈してよろしいでしょうか」「私は、○○と理解しました」というように意見を自分の言葉で要約しながら確認をしていくと、「いやそうではなくて××なんですよ。」と、認識がズレていることに気付くときがあります。

実は、これが合意形成をしていく大切なプロセスになります。

意見が対立している人たちでも同じ組織にいるため、高い視点で見れば、「自分たちの会社をより発展させる」という同じ目的を持っています。しかし、ちょっとした認識のズレから意見が対立してしまうケースが散見されるのです。

DX推進部のTさんは、会議で営業現場にDX導入を提案しましたが、営業現場からは、「今のままで特に問題はない」と導入に消極的な答えが返ってきました。

そこで、ファシリテーター役が双方に「生産性の向上という目的は同じ」であることを確認した上で、意見対立の理由を洗い出していきました。すると、そもそも、これまでアナログが主流の営業現場にとって、デジタル化に伴う業務の変化への不安が大きいことが分かってきました。

そこで、まずは「デジタル化は簡単で使いやすさを最重視」という大前提を合意形成しました。すると、大きな意見対立の構造は解消されて、人材不足、営業担当の能力差、各種コストの削減といった、営業現場が抱えている課題を解決すべく、優先順位を付けて段階的にDXを導入していくという方向性がまとまりました。

この事例のように、けっして表面的な言葉だけでは、意見対立の本当の理由や背景が分からない場合もあります。同じ企業でも、立場や年齢や文化・社会環境、価値観、経験の違いなどから、当然個々の意見や考え方は違います。意見が対立したときにはその構造を丁寧にひもといていきましょう。

「一般的には」の根拠を質問で確かめる

本来ならば、議論は事実を数字やデータに基づいて伝えるものですが、時には、曖昧な主張も混ざっています。その場合、数字の根拠、何に基づいて主張しているのか、出所はどこか、誰の発言かなど、実際にあった出来事や数字を確認して事実を明確にしていく必要があります。

しかし、「何に基づいて○○と主張しているのですか?」などと、あまりストレートに聞くと相手の気に障ることもあります。そこで、「もし差し支えなければ、そうおっしゃる理由をもう少し具体的に教えていただいてもよろしいでしょうか?」とクッション言葉を挟む、あるいは「勉強不足で申し訳ありません。ちなみにそういう数字がどこかに出ているのでしょうか?」のように“教えてください”というスタンスで聞くと、角が立ちにくくなります。

また、注意をしたいのが「一般的には~」「普通は~」というフレーズが目立ち始めたとき。自分の意見にもかかわらず、つい話していくうちに「一般的には~」「常識的には~」「今まで~」「みんなは~」と一般論にしがちです。

しかし、確認をすると、「普通は~」が、実は「私としては~」「○○部の慣習としては~」が事実だったということも少なくありません。このように言葉の使い方で気になった際にも、念のため質問をして事実を確認していくことが大切です。