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修正しても構わない、決断のプロセスを可視化せよ

世界では今「アジャイル」(俊敏性)の必要性が語られています。ビジネスの世界でも、熟慮に熟慮を重ねて“正解”を導くより、まずは現時点で最適と思える選択を行い、走り出してから不具合が出たら修正していく柔軟性と機敏さが求められています。

その意味では「早く、不十分、すぐ変更」でも、僕は構わないと思っています。もちろん理想は「早く、完璧、無変更」で、そのほうが現場も混乱せずスムーズに物事は進むでしょう。でも、世の中そう単純ではありません。ことに感染症など刻一刻と状況が変化していく状況下では、早期になるべく「正解に近い判断」を求め、走りながら試行錯誤していくしかありません。

困難な意思決定の概念
写真=iStock.com/Bulat Silvia
※写真はイメージです

もっとも、今回の政府の判断のように「遅く、不十分、すぐ変更」はよろしくないですね。

今回は2022年7月末に全国知事会や日本医師会から「感染症法上2類相当から5類相当への見直し」の要望が出され、それに応える形で、8月末の「全数把握見直し」の結論が出ました。要請から決断まで1カ月も時間を要した以上は、それなりに正解に近い答えを出したのだろうと思いきや、知事会からの反発を受けてすぐに「変更」となってしまった。これではリーダーとしての決断力が疑われても仕方がありません。

ここで菅義偉前首相の決断法と比べてみましょう。両者のやり方には大きな違いがあります。菅さんはまず自分で結論を下し、後から周辺意見をもとに修正していくタイプでした。僕自身は菅さんの出す「結論」におおむね賛成でしたが、世論の受け止め方は違っていました。「周囲の意見を聞く耳を持たない」「強気に決めたわりに、後から修正ばかり」「軸の定まらないリーダー」との印象を与えたようです。

しかし、リーダーがまず最適と判断した方向に走り、専門家の指摘があれば後から修正していく姿勢は、まさに「アジャイル」の実践ではなかったでしょうか。一方、その対比として登場したのが岸田文雄首相です。「聞く力」を前面に出し、「自分たちの意見を聞いてくれる」印象が内閣支持率を向上させました。

実際、岸田さんは世論を見る目が優れています。賛否両論ある問題を、世間すなわちメディアがどのような論調で語っているかを見定め、決断する。だからこれまでの「結論」の多くは、世論とそう大きく乖離はなかったはずです。ただ、そろそろこの手法も国民から飽きられ始めているのかもしれません。たとえば安倍晋三元首相の「国葬」決定は大問題に発展し、これを機に支持率も下がってしまいました。