拡散し、分裂する人々のアイデンティティー

現在、人は社会生活の中でSNSなどを用いてたくさんの「ペルソナ」を使い分けている。

チャールズ・ハーヴェイ、スージー・ハーヴェイ著/鏡リュウジ訳『月と太陽でわかる性格事典 増補改訂版』(辰巳出版)
チャールズ・ハーヴェイ、スージー・ハーヴェイ著、鏡リュウジ訳『月と太陽でわかる性格事典 増補改訂版』(辰巳出版)

職場や学校ではその場にふさわしい人格を演じ、家庭では母や妻、夫の、そしてまたSNS上ではさらに別のパーソナリティーを見せていることもめずらしくない。

いわば、一人の人間なのだけれども、さまざまな「自分」を生きているのである。

アイデンティティーは拡散し、分裂しているといってもいい。ちょっと前までなら二枚舌、一貫性がない、などといわれたことも、今ではフレキシブル、マルチな存在として肯定的に受け止められることもあるはずだ。

もちろん、昔からそうしたことは知られてきたわけで、「本音と建前」はあって当然であったし、「顔で笑って心で泣いて」ということもまたあったはずだ。

現代人は「矛盾した自分」を生きている

このようなアイデンティティーの分散、拡散がネットの出現によってより先鋭化している。かつては、職場で「公の自分」を見せていても、飲み会などで「私の自分」もさらけ出すことも往々にしてあった。

しかしSNSでは自分の一面だけを見せて、あるいは作り出して人間関係を構築することもできる。人間は「複数の自分」を抱えた存在であるということがより自明になってきたのだ。

ただ、「たくさんの自分」「矛盾した自分」を現代人は生きているのだけれど、逆に言えば、その切り分けをうまくやりすぎて内的な葛藤から目を背けていることもあるかもしれない。

SNSだけであれば、あるいは「仕事と私生活の切り分け」をうまくすれば、矛盾を抱えた人間としてせいだくも併せて人と向き合うということも、避けようと思えば避けることができるからだ。

「当たるかどうか」より大切なこと

この本は「たくさんの自分」の中から、「太陽」が示す自分と「月」が示す自分というコントラストの強い側面に光を当てる。

ここで、星占いが実際に当たっているかどうかは、懐疑主義者のあなたにはどうか、いったん棚の上に置いておいてほしいのだ(もちろん、素直にゲームとして受け入れて楽しんでいただければ、それに越したことはない)。

現代的な人間なら、自分の中の複数性を素直に受け入れられるだろう。