「天皇の初孫」という身分から離れた眞子さん

ダイアナ妃が女王に声をかけ、女王がこう返す。「随分、撮られてるわね。でも大事なのは紙幣に使われる肖像だけ。あなたも使われる頃には理解できるわ」。それだけだ。そして、ここでも「撮られること」が話題だった。

エリザベス女王は「王の長女」だ。いつか紙幣になるのが、人生の前提。だからこの言葉の延長線上に「王室にいるのだから、夫の浮気くらい目をつぶれ」があることは容易に想像がつく。だが、ダイアナ妃は外から来た人、目はつぶれない。それがよくわかるシーンだった。

話を『プリンセス・ダイアナ』に戻すなら、アンドリュー王子と離婚するセーラ妃のインタビューも登場した。「なぜ豪華な暮らしを手放すのか。言うことを聞いて、適当に合わせておけばいいのに」と聞かれ、こう答えていた。「そういう生き方もあると思う。でもダイアナや私は、それが我慢できない」

「天皇の初孫」として生まれた眞子さんは、ダイアナ妃より女王に近い立場だ。だが、日本の皇室は「男系男子による継承」と定められている。女性は生まれた時から非主流で、「スペンサー」に例えるなら絶対に紙幣にならない存在だ。

とても熱心に公務をしていた眞子さんが、皇室にどんな違和感を覚えていたのかはわからない。だが、結婚を強く希望した。それはつまり、身分を離れることを強く希望したことになる。なぜなら、女性皇族について皇室典範が定めているのは「天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れる」ことだけなのだから。

「良妻賢母になりたい」と語るダイアナ妃の表情

ダイアナ妃の映画が死後25年たっても成立するのは、その存在感が衰えていないからだ。それはなぜか、2本を見ながら考えた。

ダイアナ妃を取り上げた雑誌
©Michael Dwyer / Alamy Stock Photo
ダイアナ妃を取り上げた雑誌

結婚当初から夫の心には、ずっと別の人がいる。そんなひどく理不尽な状況への同情、共感が根底にはあるように思う。そして、離婚からわずか1年での突然の死。あまりにも劇的な人生が、忘却を許さないようにも感じる。だがそれだけではない。生き直したから。そんなふうに思った。

『プリンセス・ダイアナ』に映るダイアナ妃の顔は、どんどん変わっていった。結婚前に「チャールズが隣にいれば安心です」と言っていた顔。ハリー王子の出産当日に、チャールズがポロに出かける様子が映り、そこにカミラ夫人もいる。その後に、公式インタビューに応じるダイアナ妃の顔は大人のそれで、少しかげりが感じられる。「あなたの役割は何だと思いますか」と尋ねられ、「夫を支えること」と答えている。「何より、良妻賢母でありたい」と。